本能(ymin)

本能・５ ページ17

「ごめん、じゃあいただくね」
「う、うん……」


軽く開いたやまだの口からちらりと覗く鋭い牙。
ゆっくりと近づいてきて、首筋にぬくもりを感じて。
牙を突き立てられる痛みは、すぐにゾクゾクとした気持ちよさに変わる。
寄りかかっていた壁とやまだに挟まれて、やまだの背中に手を回していないとそのままずり落ちてしまいそう。


「あ……ふッ、ん……！」


我慢出来なくて、意図せず零れ落ちてしまう、欲に濡れた声。
どうしよう、こんなの気持ち悪いに決まってるよね。
それでも、やまだに触れていたくて。
ちょっとだけやまだに抱きつく手に力を入れたら、やまだがグッとおれをより壁に押しつけてきた。
一歩、足を踏み込まれると、おれの足の間にやまだの足が割って入る。
太ももが、敏感な部分に触れた。


「ひあッ……！」
「ッ……！！」


思わず、声が高くなって。
めちゃくちゃ恥ずかしくて、回してた手を自分の口元に持ってきて覆い隠す。
そしたらやまだが、バッ！とおれから身体を離した。
肩を掴んで腕で距離を取られて、突然でびっくりする。
なに……？
どうしよ、やっぱりおれが変な声出したから……？


「やま、あの……」
「……ごめん、夢中だった」


それだけ言うと、やまだがおれの首筋を舐める。
また声が出そうだったけど、そこは堪えた。
やまだに咬まれたキズは、これで消えた。


「ありがとね伊野尾ちゃん。
それじゃ、また明日」
「え……あの、やまだ！」


さっさと帰ろうとするやまだを、必死に呼び止める。
もう少しだけ、一緒にいたい。
でも、素直に言葉が思い浮かばなくて。
何か、言わなきゃ。
でも何を？
全然出てこなくて、やっと思い出したのはこの間のこと。


「そ、そういえば、この間美味しいご飯作ってくれるって、言ってたよね……？
今日とか、この後って、もし何も予定無いんだったら……」
「ごめん。
……それは、出来ない」


え……。


じゃあ、って足早に立ち去るやまだ。
残されたおれはただ、その場に立ち尽くした。
力が抜けて、座り込んでしまう。


できない、って、なに？
用事があるっていうことでもない。
ただ、拒絶された。
どうして？
最初に誘ったのはやまだの方だったのに。
すごく柔らかい表情で微笑む姿を見せてくれた彼からの拒絶は、おれの心を抉った。

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