本能(ymin)

＊ ページ12

言われてみれば、少し痛い気がする。
もう止まってはいるみたいだけど。
脱いで、って言われて素直にシャツのボタンを外した。
前開きのワイシャツだから、ボタンを全部外したら痛みを感じる左肩だけ露出させた。
右だけは恥ずかしいから着たまんま。


「……消毒、ちょっとしみるかも」
「えー……」
「子供か！」
「いつもみたいに治してくれればいいのに……」


ボソッと言えば、消毒しようとした山田の動きが止まった。
あれ？って一瞬考えて、一気に顔が熱くなる。
や、だって、そんな！
だっていつもみたいにって、つまり、舐めて治してって意味になっちゃう、わけで、そんなの、恥ずかしすぎ……！！


「あ、あの、ちがうの、そうじゃなくて、」
「それは……ちょっと、ヤバいから」
「え……」
「たぶん伊野尾ちゃんの血を舐めたら、止まんなくなる。
理性吹っ飛んで首筋に咬みついて、そのまま伊野尾ちゃんを……」


そこで、山田が言葉を止めた。
そのまま、俺を……？
山田の瞳を見たら、一瞬だけ、紅くなった気がした。
ドクンッ、って、身体が熱くなって、ゾクゾクした。


「は、う……ッ」
「……ごめん」


変な声が漏れて、口を慌てて塞いだ。
何、これ……！
どうしたらいいか分かんないでいると、やまだが謝ると同時に目をそらして。
その熱が治まった。


「ふ、ぇ……？」
「……ほら、伊野尾ちゃん肩」
「あ……」


何も言えなくて、無言が続いて。
手当てが終わってからも会話はほとんどなかった。
少し休んでいきなって言われたけど、もうだいぶ回復してきていて。
そろそろ帰るね、って、出ようとした時。
玄関先で言われた。


「……伊野尾ちゃん、もう、血はいいよ」
「え……なん……」
「伊野尾ちゃんの体調にも影響あるし。
俺のせいでこれ以上迷惑かけたくないから」
「…………」


なんで、そんなこと言うの。
散々おれの気持ちかき回したくせに。
だんだん腹が立ってきた。


「……バカじゃねぇの！！」
「え」
「迷惑なんかじゃないし！！
というか、それでやまだが我慢しまくって、この間みたいに誰か襲っちゃったら、どうするつもりなの！？
アイドル続けたいんでしょ？
もし他の誰かにバレて、やまだが辞めることになったらそれこそ迷惑なんだからね！！」


分かってんの！？って詰め寄ったら、山田が目をぱちぱち動かした。
え、何？って考えてる顔。
啖呵きられるって予想してなかったんだね。

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