本能(ymin)

本能(ymin) ページ1

その日はいつもと様子が違った。


「おはよー、あれ、山田だけ？」
「あ……おはよう、伊野尾ちゃん……」


楽屋に入れば、いたのは山田ただ１人。
ソファに座って、俯いていた。
挨拶すれば、少し顔を上げて返事してくれたけど、また俯いてしまった。
そういえば、確か今日は知念もいるはずなのに。
まだ来てないのか、今何時だろ。
時間を確認しようとスマホを開けば、マネージャーから知念が遅れるという連絡が入っていた。
なんだ、そーゆーことか。


「やまだー、スマホ見た？
知念遅れるんだってさ」
「えっ、ウソだろ！？」
「え……いや、マネージャーから連絡が……」
「っ、そっか」


山田がソファから勢いよく立ち上がったと思えば、また座って俯いた。
さっきから様子がおかしい。
若干顔も蒼白いし、押さえてる手が震えているような。


「どうしたの山田？
体調悪いの？大丈夫？」
「大丈夫……放っといて貰っていいかな」
「……分かった」


心配して聞いたのに、放っといてだって。
とりあえず荷物置いて、山田のことはロケ中にヤバそうだったらフォローすることにして。
今楽屋で構うのはやめることにした。
次の台本を取り出して、読むことに集中する。
楽屋には無言が続いた。
俺が紙をめくる音しかしない。


「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………あ」
「ッ、！」


思わず右手の人差し指の先を切ってしまった。
こういうの地味に痛いんだよねぇ。
あ、血ぃ出てる……。
絆創膏ないからとりあえず舐めとこ……ん？


「やまだ……？どうし……」


いつの間にか、目の前に山田が立っていた。
どうしたの、と聞こうとしたが、右手の手首をいきなり掴まれて言葉が思わず止まる。
え、何？


「ちょ、やま、んっ、！？」

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