夢と現実の(２) ページ39
・
砂浜に足を取られるのは、あまり好きじゃない。
歩きにくいし動きにくいし、コースには不向きだ。
だけどその日は、あえてその道を選んだ。
そうすれば、イライラとか、悲しみとか……負の感情が、そちらに向いてくれる。
私は大股で砂浜を歩き、iPadから流れる音楽だけに集中する。
お気に入りの曲だけが入った、昔使っていたiPad。
今はもうウォークマンみたいにしか使ってないけど、このiPadは、お母さんが買ってくれて……。
｢……そうだった、なんで使ってるんだろ｣
海に投げ出したい。もう使いたくない。
でも残しておきたい。まだ使っていたい。
なんてわがままなんだ、身勝手なんだ。
もういっその事、私ごと放り出してくれないか。
……だめだな、私。
"あの日"が近づくと、どうもこうなる。
────お母さんの、命日。
｢……忘れろ、今は違う。忘れろ、忘れろ｣
呪いの言葉を、呪文を、戒めるように言う。
お気に入りの音楽でさえ、もう聞こえない。
ウォーキング中だったのに、足が動かない。
ついに立てなくなって、足を抱えて蹲る。
助けてって叫んでも、惨めになるだけだ。
自分の力で、動け、立ち上がれ、歩け、走れ。
────強くなれ、私。
『あんたは充分、強いやつだよ』
｢……いず、み、さん｣
突然、脳裏に浮かぶ彼の顔。
耳に残っている、あのセリフ。
……やっぱり私、彼が好きだ。
私の欲しい言葉をくれて、居ない時にも支えてくれて。
あなたの優しい言葉で、私は幾度となく立ち上がってきた。
｢……よし、大丈夫！｣
『大丈夫』は、魔法の言葉。
自分にかけた呪いの言葉も、綺麗に溶かしてくれる。
あなたがくれた、幸せの象徴。
｢…………｣
自然と、強ばった表情が綻んだ。
きっとこの想いは、一生消えない。
｢大好きだーっ！｣
タイミングよく流れたのは、一番お気に入りの曲だった。
*********************
日課のウォーキングが終わり、家の前に着く。
少し戸惑ったせいもあって、予定より遅くなってしまった。
後悔先に立たずというのか、やってしまったな……と落ち込む。
しかもタオルを忘れるという始末だし……ついてない。
ひとまずポケットにあったハンカチで額を拭く。
さらに暗証番号を打とうと、マンションのボタンに手をかけた時。
｢A｣
突然、声をかけられた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 481人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
莉緒(プロフ) - すいかさん» 返信遅くなりすいません！コメントありがとうございます！これからも面白いお話が出来るよう、頑張ります！ (2018年11月7日 22時) (
レス) id: 013457e9b7 (このIDを非表示/違反報告)
すいか - 面白いです!! (2018年10月24日 6時) (レス) id: 1cbfe77de4 (このIDを非表示/違反報告)
莉緒(プロフ) - 愛姫さん» コメントありがとうございます！これから楽しんでいただけるよう、頑張りますね！ (2018年1月25日 17時) (レス) id: 9db52594cb (このIDを非表示/違反報告)
愛姫 - いつも楽しみに見てます！！これからも頑張ってください！！ (2018年1月25日 13時) (レス) id: 43b6895a40 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
