36日目 ページ36
気づけば、窓の外は一度か二度は見た景色になっていた。
嗚呼、戻ってきてしまった。
逃げたのに、やっと彼らから解放されたと思ったのに。
悟っていた気がする。
この葛藤は、彼らと共にいる限り、永遠に消えることなんてないのだ、と。
とてつもない恐怖に、体の自由が効かない。
無理、無理よ。
私に、彼らの愛を受け止めるだけの器なんてない。
私が受け止めることができるのは、いつだって、彼の愛だけなのだから。
止まらぬ震えを誤魔化すように、外を眺め続けた。
徐々に近づく見慣れた風景に、目を瞑りそうになりながら。
.
『____え』
体の震えは止まった。
涙も、驚きのあまりに引っ込んで、代わりに目を見開いた。
どうして、どうして貴方がいるの。
『止めて』
「え…？」
『馬車を止めて！今すぐに！』
半狂乱の状態で兄さんにそう呼びかければ、彼は急いで馬車を止めるように指示を出した。
急停止した馬車は大きく揺れ、背中を強く打った。
が、そんなことは御構い無しに、痛む背中を庇うこともせず、馬車の扉を乱暴に開けた。
暴走にも近い馬車の動きに、周りの人はその目を見開かせ、私を見ていた。
勿論、その中に、彼もいた。
彼と、目があった。
もう、見ることなどないと、そう思っていた彼の黒く澄んだ瞳と。
『っ…！』
駆け出した。
後ろから聞こえる静止の声なんて耳に届くはずもなく、ただ、目の前の彼の名を呼んだ。
『___ぴくとっ！』
そうすれば、何故か彼は、驚きながらもその腕を広げて、その胸の中に私を招き入れてくれた。
あの時と同じだ。
この温もりも、匂いも、何もかも。
『っ…ぅ、ぴくと、ぴくとっ…！』
溢れる涙が彼の服にシミを作り、止まったはずの涙は滝のように流れていった。
呼ぶことすらできなかった彼の名を、狂ったように呼び続け、何が何でも、もう離れないでいて欲しかった。
「…A」
『へ…？』
「ぇ、あ、…す、すみませんっ、何か、え…口が、勝手に…！」
顔を上げれば、私よりも驚いたような顔をしている彼の姿。
慌ててよくんからない弁解をしているが、彼の声は、正真正銘、ぴくとのものだった。
偽物なんかじゃない、そっくりさんでもない。
彼は、私の愛した人だ。
『…愛してる、ぴくと、ごめんなさい、貴方を救えなかった、どうか、こんな私を許して…』
譫言のように、そんな言葉を零せば。
私の意識も、溢れるように消えた。
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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (
レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません！書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません！走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました！ 本当に好きです！ (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…？感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そういろね | 作成日時：2019年4月9日 19時
