27日目 ページ27
『…』
絶句した。
活気溢れるとまではいかなくとも、確かに、女子供の農作業の声や、男達が木を切り落としたりする時の勇ましい声が聞こえていたはずだ。
なのに、こんなにも冷たく、静まり返っている。
家があったと思われる場所には小蝿が群がり、遠目からでもわかる、誰かの白骨。
肉が残っている者もいるが、既にただの肉塊と化している。
これが、私が愛した故郷だとは、とても思えなかった。
「…酷い」
『…どうして、こんなことに…』
「……Aさん、ここって…?」
『…私の、故郷』
シイナも、目の前の光景に顔を歪ませていた。
近づく気にもなれず、私はその場に、膝から崩れ落ちた。
シイナが直ぐに駆け寄ってくれるが、お礼を言えるほど私には気力がない。
【__軍人って…貴女、自分が何を言ってるか分かってるの…?】
【政府の方から推薦を貰ったの、こんな機会もう一生ないから、看護師はやめて、国の為に働きたい】
【っ…そんなこと許しませんからね…!軍人だなんて、命を落としたらどうするつもりなの!】
【こんな光栄なことはないわ、やりたくもない看護師なんかやるくらいなら、必要とされている所へ私は行きたいの!】
【そんなことは許しません!】
【どうして!軍に入れば、この村だってどうにか助けてもらえるかもしれないじゃない!】
【他国の…それも戦争が多い国の助けなんて必要とするほど私たちの村は腐ってないわ!そんなに軍に入りたいのなら、貴女とは縁を切りますからね!】
【っ…もういい!私は…私は何が何でも軍に入るから…!】
【A!】
母の顔が頭に浮かぶ。
あの口論以降、私はこの村に帰ってきたことなんかなかった。
13歳の時に村を出て、我々国で医学を学んで、挫折を知り、16歳でせめてもと看護師になった。
この村にいた時間と、我々国で学んでいた時間はほとんど変わらない。
だけど、確かに、私は掛け替えのない時間を棒に振ってしまったのだ。
お別れの一言も、お礼の一言も、まともに言えないまま。
「…!?Aさん!」
意識が遠のいて。
拭えぬ涙で頰が濡れるのを感じながら、目を瞑った。
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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません!書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません!走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました! 本当に好きです! (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…?感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月9日 19時