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「A」
『どしたん、鬱、ノート取り損ねたん?』
「いやちゃうねん、ちょっと聞きたいことあってな」
『ん、何?』
いつも通り会話をするが、散らばったあいつらの視線と、もしもの回答を聞いてしまった時の不安と緊張で本当にいつも通りかわからない。
手汗がやばい。
何か上手く立ててるかもわからない。
出来る限りバレないように、しゃがんで、長い机に腕を組んで、その上に自身の顔を乗せて、見上げるようにして聞いた。
「Aって、好きな人とかおるん?」
『…どしたん、急に』
「いや、昨日な、小さい頃からそういう話聞かへんなぁって話になってな、何となく聞いてみたかってん」
『…おるよ』
その返答に心臓が跳ねた。
好きな子に、好きな人がいるという、ショックに近い感覚が、頭を埋め尽くす。
決めていたサインであいつらにAの返答を送れば、何処からかガタガタと音がする。
方向的にシッマやろ。
大丈夫?みたいな声が聞こえてくる。
Aもそちらを横目で見るが、俺はそちらを見る余裕なんて全くない。
「ちなみに、それってさ、俺だったりするん?」
声が震えている気がする。
目が合わせられない。
俺と言って欲しいような、言って欲しくないような。
そんな葛藤を繰り返しながら、どちらにせよ返事をしないで欲しくて、秘密って、可愛らしく笑って欲しくて。
それを願っていれば、彼女の返答は虚しくも俺の鼓膜を震わせた。
『…うん』
「…え?」
『アピール、やっと気づいてくれたん?』
「あ、ぴーる、って…」
『好きでもない人に、毎日お弁当作って来たりせぇへん、チョコだって、あんなに気合入れへんし、セーターだって、皆にとられへんようにわざわざ夜渡したし、お揃いにしたくて自分の分も作ったし、メイクだって、友達に教えて貰えばええのに、わざわざ男の子に頼まへんよ、この前シッマが風邪引いてすぐ行かんかったのも、鬱と帰りたかったからやねん』
「で、も…」
『皆と一緒じゃ駄目なんは、そんくらい差つけな鬱が気づかんからやで?』
予想していても、いざこうなると喜びや驚きで頭がこんがらがる。
周りがこちらを見ている。
そんなことは気にならないほどに、心臓が煩い。聞こえてしまう。
『うちら、付き合わへん?』
「…ほんまに?」
『それとも、ちゃんと告白してくれるん?』
彼女の、悪戯っ子のような笑顔を見れば、嫌でもこの気持ちはバレてるのがわかる。
答えの代わりにキスを1つ落とした。
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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月4日 4時