16 ページ16
『…誕生日、どうしようか』
「…?あぁ、せやな、今年は空気読んで2人にしてくれるんとちゃう?」
『一緒にいてくれるん?』
「当たり前やろ、何でもしたるで」
『…何でも?』
「何でも」
"何でも"。
その言葉に、どこか複雑な気持ちになる。
やっぱり、鬱はちゃんと尽くしてくれる。
適当にあしらったりだとか、そんなことは全くしない。
何聞いても優しく答えてくれる。
でも、それって、誰にでも、やんな。
『何でもかぁ…』
「して欲しいことでもあるん?」
『…うーん、沢山あるわ』
「沢山かぁ…部屋の片付けとか言わんとってな」
『自覚あるならしぃや』
別に、そんなに言うほどでもないと思う。
生活感があるだけで、別に汚いわけでも散らかっているわけでもない。
彼は、意外とそういうところは、自分に対して厳しいのかもしれない。
昔から、テストの点数も特別悪かったところは見たことないし、教えてって言えば、わかりやすく教えてくれた。
『鬱は、して欲しいことないん?』
「俺は、側におってくれるだけでええわ」
『ほんまに?』
「まあ、強いて言うなら部屋の模様替え手伝って欲しいな」
『模様替えするん?』
「うん、家具、もう結構古いねん、実家から引っ張り出してきたもんやから」
いつか、鬱と同棲したり、家庭を築いたりするのだろうか。
まだまだ先のことなのに、こんなにも胸が弾むくせして、その分だけ不安が募っていく。
「…でも、模様替えはまだ先でええわ」
『ええんや』
「どうせするなら、一緒に住む時にしよな」
『…おばさんのご飯、久しぶりに食べたいわ』
「また今度行こか、きっとおかんも会いたがっとる」
上手く、話を反らせただろうか。
顔に熱が募って、反射的に、彼と繋いでいた手を強く握った。
そうすれば、ちゃんと、握り返してくれた。
本当は、して欲しいことなんか、1つしかないんやで、鬱。
『おじさんと、お酒飲める日がすぐ来るんやな』
「あの人すぐ酒進めるからな…やっと一緒に呑んでやれるわ」
『…きっとすっごい美味しいで』
「悪酔せんといてな?」
『そん時はおぶってって』
まだ先のことやし、言わんといてあげるわ。
でも、いつかそん時がきたら、うちの我が儘、聞いてな。
118人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月4日 4時