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25瓶目 手鏡 ページ37

あの子が去っていった部屋で、
僕はぼふっと音を立てベッドに腰かけた。
意味もなく両方の太ももを眺めたあと
ベッド脇の小机の引き出しから手鏡を取り出す。
これもカーテンと同じ薄紫色で
一見普通の鏡なのだが_________

「鏡、父さんに繋げて」

僕がそう言った瞬間、手鏡は淡い光を発した。
ドキドキしながら暫く待つと
そこには僕でなく父さんの姿が映り込む。
この手鏡は僕達の団体だけが持てるアイテムで、
どうやらとある一族が創り上げたものらしい。
離れた相手とも会話できるスグレモノだ。
僕はあんまり好きじゃないけど。

ちら、と鏡の向こうを伺った先には
僕と同じ色の髪の毛が憎たらしい、
いつもキツい目をしている父さん。
この対面の瞬間が僕は大嫌いだ。

「あ、父さん……あの」

思わずモゴモゴと口を動かすと、
無言のまま父さんが眉間に皺を寄せたので
すかさず「団長様」と訂正する。
何度叱られたことだろうか。

「手紙を関係者達に送っておきました、
でも、僕やっぱり……」

いつもの癖で言葉を切り、唇を噛む。
数秒の間が空いて父さんが口を開いた。

「それだけか?」

つまらなさそうな顔に心底絶望する。
僕の顔も見ず書類に目を通す仕草、
いつもこうだからもう慣れたかもしれないけど。
でも何かが止まらなくて僕は思わず口を開いた。

「お言葉ですが、団長様」

「僕はこんなことしたくない。
貴方の息子は、僕は善人になるって決めたんだ」

ぱく、と口を動かす。
そう毅然とした態度で言ったつもりが
ただの僕の妄想だったことに気づいて、
そっと口を閉じた。
無駄に酸素を取り込んだ息子を
心底軽蔑するような眼差しで一瞥したあと、
父さんは短く一言言って消えた。

「しくじるなよ」

手鏡は光を失い、ただの安っぽいモノに戻る。
でもその向こうには、その安っぽい手鏡より
価値のない男の姿があった。

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ワタクシ(プロフ) - レイさん» いつもお世話になっております……!そんな風に言っていただけて本当に嬉しいです!これからもよろしくお願いいたします! (2020年5月11日 22時) (レス) id: cfda2d1e9e (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 本当に綺麗な文章で感激しています!この作品大好きです!これからも応援しています!! (2020年4月20日 13時) (レス) id: a4e5c10c36 (このIDを非表示/違反報告)
ワタクシ(プロフ) - 関西人さん» 長いこと留守にしていましたが、貴方様のコメントで励まされました.......!素敵な言葉をありがとうございます。もう一度書きたいと思えました。これからも応援してくださる方のために書き続けますので、何卒よろしくお願い致します! (2019年10月12日 22時) (レス) id: d168fc46ca (このIDを非表示/違反報告)
関西人(プロフ) - 凄く綺麗な小説ですね!大好きです。もっと早くに知れば良かった... (2019年9月8日 16時) (レス) id: 35e35c5ca7 (このIDを非表示/違反報告)
ワタクシ(プロフ) - つばさ、別アカ2さん» 返信遅れて申し訳ありません、お褒めの言葉ありがとうございます!諸事情で「きみの瓶詰め」の方は停止中ですが、こちらをお楽しみ頂ければ嬉しいです。 (2019年2月24日 21時) (レス) id: 91d5b5e9ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ワタクシ x他1人 | 作成日時:2018年12月19日 20時

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