幻想小噺

3瓶目 新米サンタの憂鬱 ページ4

いやはや、今年のクリスマスも
沢山の子供達が笑顔になりましたね。
……え？わたくしですか？
恋人がおりません故仕事をしておりましたよ。
普段はあまり思いませんが、
この季節ばかりは寄り添い合う恋人達が
羨ましかったりします。
……さて、幸福なまま終わろうとしている
平成最後のクリスマス、
人々の笑顔の影にはこんな話がありました。


それは12月23日、
クリスマスイブの前の晩。
しんしんと雪が降る中
一人の若い男性が店にやって来ました。
……わたくしは驚きましたよ。
何故かって？その男性は赤い服に赤い帽子、
なんと新米サンタクロースだったのですから。
浮かない顔の彼に暖かいココアを手渡すと、
自身の悩みを語りました。

自分はまだ新米で、
人々を笑顔に出来るか分からない。
もしプレゼントを届けるのに
失敗してしまったら？
そう考えると、折角任せてもらった配達も
怖くて嫌になってしまうんだ。
彼はそう言いました。
相手があのサンタクロースであろうと、
わたくしのプロとしての能力は変わりません。
彼に足りないものはアレ、ですね。

それからわたくしは癒術を使い、
彼のココロから夢を呼び出します。
人によってココロから生まれる景色も
変わりますが、
彼の場合は沢山の子供達の笑顔や
鮮やかに彩られる街の姿が浮かびました。
貴方には確かな夢があるじゃないですか、
そう言って微笑みかけると、
景色は美しい雪へと変わった後
やがて光の粒となり消えていく。
次の瞬間、わたくしの掌に
綺麗な雪の結晶が舞い降りました。
光を受け輝くそれは、
彼が夢を叶える為努力する姿そのもの。
つまり雪の結晶が表したのは

｢自分を信じる気持ち、ですね｣


さあ、貴方の瓶詰めを創りましょう。


材料の殆どはいつもと変わらないですが、
ある魔法の人形が
どうしても彼の元に行きたいと言うので
その子を瓶に入れることにしました。
なんだか心が温まるような、
そんな気分から口元に笑みが零れる。
魔法の人形へ結晶を与えると
眩しく輝いた次の瞬間、
小さな小さなプレゼントの箱に変わりました。

｢あなたの瓶詰めです、お受け取りください｣

瓶の中で、トナカイ姿の魔法の人形が
プレゼントを咥えて一声鳴いた。
受け取った彼は柔らかく微笑む。

｢貴方が本当に大切なのは、
信じるという確かなモノなのです。
貴方が信頼されている事は
既に懐いた人形を見ればすぐに分かりますよ。
さあ、自信を持って
世界に魔法をかけてくださいませ｣

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