20瓶目 気に入らない ページ29
大体の生き物は自分の為に生きている。
それはわたくしにも勿論言える事で、
現状自分の為に働き
自分の為に眠り
自分の為に生活しているのだ。
それは決して悪い事ではない。皆やっている。
自分がやりたくないならやらないし
自分が気に入らないなら消す──
そんな事でさえ。
客の去った店の中でふとそんなことを考えた。
特にだからなんだという訳では無いんだが。
そして座る者のいなくなった椅子を眺め
感情のままに客を追い出したことを少し後悔したが、
正直あいつは最初から怪しいと思っていた。
自分は温かみのある人間ではない、
それは重々承知している。
しかしあの相手も相当冷えきった目をしていた。
机上のコーヒーはもう随分と冷めていて、
まるであいつの目のようだ…なんて感じる。
「明日も来るなら相当の人ですね…」
誰にとも無くそう呟き、ふっと笑う。
まるで鏡写しにした自分を見ているようだった。
彼もきっと何か暗いものを持っているのだろう、
そんな人達は何人も見てきた。
温かみを持たない人間こそが
人の痛みをよく見ている気がする──
とか考えてみたり。
どちらにせよ人間らしさなんて自分に関係ない。
「そもそも人間じゃないし」
「あいつは人間じゃない!」
ノアの自宅に着いた私たちは、
私の小さい荷物の整理も終わり話をしていた。
彼のふかふかのベッドに2人で腰かけて。
「そんな訳ないだろ…あの先生だぞ?」
話しているのは有名作家のテオという男の事。
テオはダークファンタジーを得意とし、
作品が実に哲学的であるとして
近年注目を浴びている。
実は私も密かに彼の作品のファンだ。
人々から慕われるテオだが、
ノアはどうやら彼が気に入らないらしい。
「あいつは絶対人間じゃない…
直接見た事はないけどさ。
何となくそんな感じがするんだ」
ぷくっ、とあざとく頬を膨らませるノア。
何とも根拠の無い話である。
それにしてもこの街の辺りでは星や神話の名前が多いのだろうか。
瓶専門店の店主の弟もソルと言った。
「お前やっぱり飲み過ぎたんじゃないのか?
いま水持ってきてやるから」
やだやだ!と騒ぐノアを置いて
キッチンの方へ向かう。
寝室のドアを閉めようと一瞬後ろを振り返ると、
ノアの瞳は黒く輝いているように見えた。
もうすぐ深夜零時を回る、
夜の出来事は深追いしないに越した事はない。
そのまま静かにドアを閉めた。
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ワタクシ(プロフ) - レイさん» いつもお世話になっております……!そんな風に言っていただけて本当に嬉しいです!これからもよろしくお願いいたします! (2020年5月11日 22時) (レス) id: cfda2d1e9e (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 本当に綺麗な文章で感激しています!この作品大好きです!これからも応援しています!! (2020年4月20日 13時) (レス) id: a4e5c10c36 (このIDを非表示/違反報告)
ワタクシ(プロフ) - 関西人さん» 長いこと留守にしていましたが、貴方様のコメントで励まされました.......!素敵な言葉をありがとうございます。もう一度書きたいと思えました。これからも応援してくださる方のために書き続けますので、何卒よろしくお願い致します! (2019年10月12日 22時) (レス) id: d168fc46ca (このIDを非表示/違反報告)
関西人(プロフ) - 凄く綺麗な小説ですね!大好きです。もっと早くに知れば良かった... (2019年9月8日 16時) (レス) id: 35e35c5ca7 (このIDを非表示/違反報告)
ワタクシ(プロフ) - つばさ、別アカ2さん» 返信遅れて申し訳ありません、お褒めの言葉ありがとうございます!諸事情で「きみの瓶詰め」の方は停止中ですが、こちらをお楽しみ頂ければ嬉しいです。 (2019年2月24日 21時) (レス) id: 91d5b5e9ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ワタクシ x他1人 | 作成日時:2018年12月19日 20時