幻想小噺

12瓶目 あるものないもの ページ20

僕の生まれた日は特別な日だった。
それは自身の誕生日だからという
単純な理由ではなく、
もっと世界にとって意味ある事だからだ。
僕の生まれた日は兄さんの生まれた日。

つまり、14代目の道化師が生まれた日。

双子の兄弟としてこの世に生を受けた僕らだが
僕にあって兄さんには無いものは沢山あった。
色とりどりの玩具、温かい食事、綺麗な洋服。
これらをまとめて「親の愛情」と、
世間はそう呼んでいる。

両親は気持ち悪いほどニタニタして
僕を異常なくらい可愛がった。
気持ち悪いほど冷えた目で兄さんを睨んだ。
ああ、これが差別か、なんて思いながら
僕もまた冷えた目で兄さんを見ていた。

僕が綺麗な服で温かい食事をとっている時、
兄さんは大抵部屋の隅で縮こまって
一日二回貰う一切れのパンを
それはそれは大切そうに齧っていた。
両親が彼を煩わしそうな顔で見ている。
僕は兄さんが哀れだなって思っていた。
でもそれは突然起こった。
散々可哀想だの何だの思っていた兄さんを見て
僕はある日気づいたんだ。

「兄さんにあって僕には無い」ものがあると。

それは例えば秀でた学問の才能。
例えばいつの間にかすらっと伸びた背。

例えば「人の感情を司る力」。

僕は許せなかった。
哀れな兄さんのくせに、
どうして僕に無いものを持つんだと。
憎くて辛くて苦しくて堪らなくなったある日
僕は兄さんが日中閉じ込められている部屋が
開いているのに気づいた。

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