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11瓶目 星の肯定 ページ18

一方その頃、
瓶詰め店のある街から
少し離れた場所では──

「さぁみんな、新しい話が書けたよ」
僕がそう言って原稿のコピーをばら撒くと、
人々は待ってましたとばかりに群がっていく。
満足感から来る笑みを零しつつそれを眺めた。
……それにしても、冬の夜というものは
薄っぺらいコート一枚では
とてもじゃないが過ごせない。
はぁ、と充実の詰まった溜息を一つ吐くと
白い息が星空に還っていった。
ぼーっとその様子を眺めながらふと
先程再会した兄に思いを馳せる。
僕の知っている中で、
彼ほど哀れな者もいないだろう。

「ねぇお父さん、お兄ちゃんはどこ?」
家の中で兄の姿を見かけることなんて、
僕の5歳の誕生日が最後だった。
まだ幼かった6歳の僕は
そう父親に尋ねたことがあったのだが、
彼はその問いに対してこう答えた。

───後継者を間違えた、と。

……まだ僕は幼かった。
答えになっていないその言葉の意味に
気付くことが出来なかった。
十数年経った今では、理解はできるものの
深い意味は考えないようにしている。
……まぁつまり、兄の悲惨な過去に
気付かないふりをして誤魔化しているのだ。
僕の選択は間違っていない、
兄の犠牲は仕方が無い……ってね。
贖罪とも最早言えないけれど
大人になった僕は時々兄に思いを馳せては、
心の中でごめんなさいと呟く。

「……先生、ソル先生!」

突然頭の中に声が響き渡り、
記憶の海から一気に引き揚げられる。
急いで頭のスイッチを切り替えると
目の前に一人の少女がいる事に気付いた。
なんだい、と作った表情を見せながら尋ねると
彼女は瞳をキラキラ輝かせる。
「先生、今回のお話も凄く興味深いですね……
シンデレラをこんな視点で見るなんて」
僕は思わずふっと笑ってしまった。
そこら辺に落ちていた原稿を拾って
自分の作品を眺める。
「シンデレラはね、国中の女性達の夢を奪って
自分一人だけが幸せになったんだ。
確かにロマンチックなストーリーではあるけど
彼女がガラスの靴で踊って踏み鳴らす
ダンスフロアの床下には、
一体どれだけの夢と憧れがあるんだろうね」
僕がそう言い終わると、
途端に周囲から沢山の拍手が飛んできた。
目の前の少女は勿論、
老若男女全てが手を叩いている。
心の中でたっぷり満ちる肯定感を感じながら
僕は星々が見守る下で一つお辞儀をした。

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ワタクシ(プロフ) - レイさん» いつもお世話になっております……!そんな風に言っていただけて本当に嬉しいです!これからもよろしくお願いいたします! (2020年5月11日 22時) (レス) id: cfda2d1e9e (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 本当に綺麗な文章で感激しています!この作品大好きです!これからも応援しています!! (2020年4月20日 13時) (レス) id: a4e5c10c36 (このIDを非表示/違反報告)
ワタクシ(プロフ) - 関西人さん» 長いこと留守にしていましたが、貴方様のコメントで励まされました.......!素敵な言葉をありがとうございます。もう一度書きたいと思えました。これからも応援してくださる方のために書き続けますので、何卒よろしくお願い致します! (2019年10月12日 22時) (レス) id: d168fc46ca (このIDを非表示/違反報告)
関西人(プロフ) - 凄く綺麗な小説ですね!大好きです。もっと早くに知れば良かった... (2019年9月8日 16時) (レス) id: 35e35c5ca7 (このIDを非表示/違反報告)
ワタクシ(プロフ) - つばさ、別アカ2さん» 返信遅れて申し訳ありません、お褒めの言葉ありがとうございます!諸事情で「きみの瓶詰め」の方は停止中ですが、こちらをお楽しみ頂ければ嬉しいです。 (2019年2月24日 21時) (レス) id: 91d5b5e9ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ワタクシ x他1人 | 作成日時:2018年12月19日 20時

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