4 ページ4
.
もう決めたら決めた時だ。ここで「いやでも、まだ」とか思うようなものならまた私は足踏みをしてずっと慎太郎を好きなままだ。好きなままでいいじゃんと言われてしまいそうだがもう振り返ってなんてもらえやしないものをいつまでも追いかけるのはつらい。夢を無理矢理見てるみたいで、くるしい。
ぼんやりそんなことを考えながらバイトだという友人と別れて、1人で駅ビルまで歩いて洋服を眺める。可愛い服とか結構友達の前では着てたけど慎太郎の前で来たことなんてないな。ていうかいちいち待ち合わせして遊びに行くいわゆるデートみたいなこともしたことない。家に慎太郎が朝来て「なー映画行こ」これ見たいんだけど、といきなり来るのにだらだら着替えてついて行ったり、私も私で「アイス買いに行こうよ、じゃんけん負け奢りで」と夜に誘うぐらいのことしかしたことない。こんなのデートなんていうもんか、どれも近くに丁度いい人がいただけのこと、それだけ。
「…あ、かわいー」
冬らしい深い色のセットアップに思わず目を奪われて手に取れば「可愛いですよねー！そちら限定なんです！」という店員さんに早くも絡まれた、まあ本当にかわいいから買ってしまおうと思ってたけどさ。
試着をすればなんだかんだぴったりですぐに買ってしまった。こういうの着たらどうなんのかな、別に何もないのかな、私の自己満足で終わんのかな、きっとそうだろうな。
ずいぶん卑屈になったなあ、と少し自嘲的にため息を吐いて電車の時間を調べようと携帯を開く。まだ少し時間あるなと思いながらそのまま携帯を眺めていれば今日も今日とて慎太郎は賑やかに笑う動画を投稿していた。無理矢理肩組まれてるこーちくん潰されそうでかわいそうだな。ていうかやっぱ慎太郎の友達みんな怖い、とくに田中くん、なんか怖い、理由はわかんないけど。
「…帰ろ」
動画に女の子の声がなかったことと映ってなかったことに情けなくも少し嬉しくなりながら改札を通って電車の椅子に腰を下ろす。諦めるって決めたのに、まだこんなことを思ってしまう。だめだな、と思いぱちんと頬を両手で挟めば「おー元気じゃん、なにしてんの」と今一番聞きたくない声に黙る。寝たふりでもしてやろう、無理あるけど。
「なにしてんの、おーい」
聞こえてる？と他にも空いている席はあるのに私の隣に腰を下ろす慎太郎に「帰り道なだけ」慎太郎こそ友達といたんじゃないの？こーちくんと肩組んでたじゃんと顔を見上げる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1090人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
七瀬(プロフ) - lemonさん» わ〜！ありがとうございます！少しでも楽しんでいただけていましたら幸いです！たくさん更新できたらいいな〜と思ってますので最後までお付き合い頂けましたらうれしいです！ (2023年2月25日 19時) (
レス) id: 652635b4cf (このIDを非表示/違反報告)
lemon(プロフ) - ほんとにこの作品がだいすきで、 このきゅんきゅんがたまりません！！これからの更新も楽しみにしております！^^ (2023年2月22日 22時) (レス) @page16 id: b772619bf0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：七瀬
| 作成日時：2023年2月7日 22時
