[第五人格]愛なんて。[短編集]

森の中*3* ページ31

「っは、ぁ」
「大声出すなよ。…まぁ、出す前に首を締めるがね。」
「ん、ぐ、」
「苦しいか？なら大人しく僕について来るんだA。君に手荒なマネはしたくない。ゆっくり後ずさりして。」

言われた通りに1歩ずつゆっくり後ろへさがると、耳元で「良い子だ」と囁かれゾワリと背筋が粟立つ。
この森に来て初めての「危機」に心臓が激しく脈打つ。
瞬間、ぐわりと身体が浮かぶ感覚と共に視界が回転し、気が付けば地面が視界に移り腹の方には圧迫感。

担がれたのだ、と気づいた時にはあっと声を出す暇も無く目も眩む様な速さで森を駆け抜ける。

「な、なんでこんな事」
「無論、君を愛しているからさ。僕を含めた皆がね。」
「う゛っ、嫌です、帰して、」
「帰す？君の家は此処なのに。」
「ハァ、ハッ、ふ、ぅう…」
「君は森に愛されている。僕のような下っ端が君に触れられるだけでも奇跡さ。」

あはは、と高らかに笑って私を肩から下ろし、立たせる間も無く縛り始める。
もう逃げられ無いのだ。と判断してからはすっかり気も落ち、されるがまま。

「諦めるのは良い事だよ。あの方は従順な生き物が好きだからね。良い判断だ。」
「あの方って誰ですか。」
「決まってるだろう、食人木様さ。頑張れよ。」

ぽんぽん、と肩を軽く叩かれ、私を愛していると言う彼はその場からさっさと離れて行ってしまう。

またもや1人となってしまった。
鳥の声も木々のざわめきさえも聴こえず、ただ静寂が支配するこの奥地に私を置いてけぼりにして一体どういうつもりなのか。

そんな事を考えていると、ひたり、と首筋に冷たい葉っぱの感触を感じ、思わず身震いをしてしまう。

「冷たいか。」

悪寒が全身を駆け巡る。
突如上から降ってきた声。地響きの様な声音に心臓が跳ね上がり、逃げろと本能が叫ぶ。

「怖がる事は無い。貴様も森の1部となるだけの事。」
「、っ、ひ」

首筋を伝って背中、腹、太ももから脛に巻き付けられる冷たい蔓と葉がどうにも気色悪くて思わず短い悲鳴を漏らしてしまう。
笑い声の様な音がし、スルリと口元に指らしき物が這わせられ、無理矢理に口をこじ開けられる。
ぐぐ、と全身にかけられる力が強まったかと思いきや、顎を掴まれ強制的に上を向かせられる。

「我と生きよ。」

ギョロリと光る無数の目と私の目が合った瞬間、意識がぷつりと途切れた。

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