画家と私。3 ページ18
ゲェッホ、オエ、ゴホ、
嫌な悪夢を見た気がして飛び起きた。
途端、鉄臭い匂いが喉に張り付き思わずむせ返る。
なんだ、なんだこの匂いは。
そこでやっと気付いた。
僕は、コートを着ながら寝ていた。しかも血だらけの。
これは一体誰の血だ?そもそもなぜコートなんて。
ハッとして床を確認する。
良かった、彼女はアホ面で寝ている。いつも通り。
冷や汗でぐしょぐしょのシャツを取り替えようと、重い足を引きずって洗面台へ向かう。
『殺してしまえよ。』
昨日聞こえた声、アレは誰だったんだろうか。
悪魔?彼女のイタズラ?それとも、俗にいう二重人格というやつだろうか。
いよいよ本当のキチガイになったか、と半笑いで鏡の自分を見詰める。
血。
もし、もし僕が本当に二重人格ならば、もう1つの人格は何をしているんだろう。
考えたくないが、もしや、誰かを傷つけているんじゃないだろうか。
または獣を殺しているか。
カタカタと手が震える。怖い、僕は、僕はどうなってしまったんだろう。
「ジャック?」
「っ、あ、」
ギキ、とドアが軋む。
血だけらけのシャツを握り締める僕を見て、彼女が真っ青になる。
思わず弁解しようと口を開いたが、それよりも先に
「ジャック!どこか怪我したのか!?凄い血の量だ…!医者は!医者を呼ばなきゃ!応急手当をするから怪我をした所を見せてくれ!」
真っ青な顔で僕に駆け寄り震えた声で心配をされた。
僕が呆然としていると、更にショックを受けた様子で「そんな…頭にまで怪我が回ったのか…」などふざけたことを抜かすから少し頭を叩いた。
「い、痛い!ジャック!ふざけてないで早く手当を…!」
「ふざけてるのは君だろ。僕はどこも怪我してない。…多分、け、怪我したのは、他の誰か、だ。」
泣きそうになりながらも何とか言い切る。
憶測でしかないが、可能性が高い。
きっと彼女は僕を怖がってこの部屋から出て行く。
だけれど彼女はにこりと微笑んで「君が無事ならそれでいい」と言った。
途端に堪えていた涙が溢れ、情けなくしゃくりをあげながら僕は泣き崩れた。
「き、君は、僕が頭のっ、おかしな奴にな、ても、一緒にいっ、てくれるか…?」
「当たり前だ。親友なんだから。」
彼女にしては珍しく言葉数が少ないけれど、今はそれが何よりも励ましになった。
僕を抱き締めながら背中をさするその手が暖かくてまた泣いた。まるでくさい小説だなぁ。
僕は、人殺しかもしれない。
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すぴお - 待って最初の弁護士で腹筋ログアウトしました最高ですアザスありがとうございます応援してます!!! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 5763911021 (このIDを非表示/違反報告)
お豆腐(プロフ) - ちょっとダークな雰囲気で世界観めっちゃすきです!夢主に感情移入しすぎて痛いw (2020年3月4日 1時) (レス) id: 4dd9818095 (このIDを非表示/違反報告)
もゆう(プロフ) - 金魚丸さん» どえぇええありがとうございます………………ありがとうございます…………。喜んで書かせていただきます………… (2020年1月26日 19時) (レス) id: 2412a78293 (このIDを非表示/違反報告)
金魚丸(プロフ) - はじめまして…!キャラの特徴だったり世界観だったりとっても大好きです…!新ハンターのアンさんが夢主ちゃんにだけめちゃくちゃ優しい…みたいなお話が見たいです、もしリクエスト受付中であれば是非お願いします!これからも陰ながら応援しています…! (2020年1月26日 15時) (レス) id: 0008ec1201 (このIDを非表示/違反報告)
もゆう(プロフ) - 綵宇さん» ぁああありがとうございますめちゃくちゃ嬉しいです……タダでは起き上がらない精神の持ち主じゃないと楽しい荘園ライフを送れないと思って意識して書いたので気づいて頂けて感激です……!!これからも更新頑張ります〜! (2019年12月26日 21時) (レス) id: 2412a78293 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もゆう | 作成日時:2019年6月9日 18時