[第五人格]愛なんて。[短編集]

世紀の大脱出劇(未遂)*精神病院組* ページ13

「ッッロォオルシャッハァァアァッッ！！！！！」

今日も今日とて病院内に響き渡る怒号。
患者は聞き慣れない怒号に怯え、面会に来た一般人は何だ何の騒ぎだと眉を顰める。

その間を縫って走り回る重病患者であり超危険人物兼重要参考人＋極秘実験体である我々を必死に止めようと躍起になる看護婦を蹴飛ばし、飛びかかる看護士を投げ飛ばし、構って欲しくて奇行に走ったクソ女に中指を立てて進む。

「きゃはははは！ねぇこれさぁぜってぇ後で酷いお仕置き貰っちゃうよねぇ！大変だぁ！」

「ヤ〜バ〜！トレイシー！そん時はさぁ2人で手ぇ握って行こうね！約束！」

「逃げるんですからそんな約束しないでください！幸い今日は人が多い！このまま走ればいずれ我々を見失う筈です！」

ゼェゼェと荒い呼吸を繰り返しながら走るコイツは元凶のロールシャッハ医師。
ある日突然私達の目の前に現れたかと思いきや否や泣き出し「こんな…こんな所に居たのか…」なんて震えながら謝られたのが先週の木曜日。

どうやら元々ここの医者だったのにあの嫌味なカビ臭い催眠医師に陥れられたらしい。ウケる。
皆で大爆笑だったんだけど、笑われている間も真剣な表情で私達を見詰めていた。

「必ず、必ず貴方達の記憶を取り戻してみせます。今は辛いでしょうがもう少しの辛抱です。一緒にここを抜け出しましょう。」

そう誘われたのが昨日の夜。
薄いスープとホコリが付いたパンを齧りながらその話を聞いていてちょっと面白そうだったから皆を誘って今に至る。

元医者っていうのも納得するぐらいロールシャッハは抜け道を知っていた。カメラの死角も。
なんだ、結構簡単じゃないかと思い始めたその時

「ハァ、ハ！見付けたぞゴミ虫共…！面倒を起こしやがってグズが…！」

そこには肩で息をする催眠医師が居た。
隣ではロールシャッハが生唾を飲み込む音がした。
仕方ない、私は1度深呼吸した後、意を決して口を開く。

「うるせぇなジジイがよ。いくら若作りしてても体力で実年齢がバレてるぞ。」

「アーハハハッ！！それ！それ言えてるぅA！くふっ、んっふふ、きゃははは！！！」

「ハァ〜〜！？！？このクソガキ！舌を切り落とされたいか！？」

「気付いてないかもしれないけどさ、お前意外とカビ臭いよ。その白衣洗ってる？」

「えっうそ…。」

『束縛者が外へ脱走しました。繰り返します。束縛者が外へ脱走しました。速やかに確保へ移ってください。』

「あ。」


〜〜〜〜〜

「皆遅…」

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