三十八個目の火光 ページ38
｢古火A完全復活だ！｣
吹雪が止んだ頃、パチッと目を覚ましたA。
椅子から立ち上がり、周りを見渡す。
小屋にはチカパシとエノノカ、そして老夫婦。
｢？？？、どこだ此処。｣
｢起きた！お腹すいてる？｣
｢腹？腹は減ってるが…、｣
Aの方へ駆け寄ってきたエノノカの手には白いものが握られていた。
｢これ！今ね、チカパシと一緒に作ってた！来て！｣
エノノカに引っ張られて机まで行くと、どうやら料理を手伝っているようだった。
皮の中に赤い実をいれて包む。
真剣な顔で作業する二人を見て、Aもやろうとするが、自分が手袋をしていることも思い出す。
なので、Aは大人しく座っていると、外からぞろぞろと杉元達が戻ってきた。
｢あ！起きたんだね。｣
｢ああ、チカパシくんから聞いた。昨日は大変だったみたいだな。｣
｢大変なんてものじゃなかったぞ。｣
全員が揃って、老婦人がどんどんご飯を並べていく。
｢なにこの汁物、真っ赤じゃん！｣
｢この汁物はボルシチといって、赤いのはビーツというカブの色素だ。｣
｢｢美味しい｣はロシア語でなんて言う？｣
｢『フクースナ』｣
月島がそう言うと皆が口々にフクースナと言う。
久しぶりの賑やかな食事に老夫婦は嬉しいと伝える。
｢ご家族は他にいないの？｣
｢あの写真は娘か？｣
鯉登が写真を指さすと老夫婦の表情は曇った。
月島が二人の話を聞いて、伝えたのは悲しい話だった。
ロシア軍の脱走兵が一人娘を連れ去ってしまった。
探しても娘は見つからず、軍や政府は何もしてくれなかった。
やがて、戦争で日本軍が樺太に上陸、ロシア政府から釘を刺されていたが、素直に日本軍に灯台を明け渡した。
しばらくして、新しい燈台が出来、ここは不要になった……。
｢でもこのご夫婦は娘の帰りをこの燈台でずっと待っているそうだ。｣
少しの沈黙。それを破ったのは杉元だった。
｢娘さんのことがあって燈台は残り、俺たちは命を救われたってことか。
……この娘さんの写真一枚借りていってもいいか？｣
続く
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作者名：きょーりん | 作成日時：2019年3月23日 21時
