三十五個目の火光 ページ35
緩まった月島さんの手をどかして見ると客席から数人の男が降りてきていた。
｢なんだ？あのロシア人。｣
ロシア人は杉元さんの前までやってくると拳銃を構えた。
ゾッ……！！！
ズドッ！
杉元さんは素早く立ち上がり男を切りつけた。
すかさず仲間が応戦するが杉元さんは弾を避け、刀を見事胸に突き刺す。
月島さんも残りの仲間を気絶させた。
｢おい！古火！！｣
｢！なんだ！？｣
｢�爐△讚瓩魎儺劼量椶料阿法帖帖�！｣
月島さんに怒鳴られ、私は察する。
そのまま魂を観客の目の前に出現させる。
舞台は見えなくなる。
そのスキに遺体を回収、魂が消えると舞台には最後の挨拶をする他に団員が立っていた。
これで一連のハラキリショーになっただろうか。
客の目を誤魔化せられたなら安心だ。
ーーー
ーー
ー
気絶した男が目を覚ました。
月島さんが聞くと、どうやら山田さんを狙っていたらしい。
｢『ハラキリ芸を演じる男が山田座長』だというのが唯一の依頼主からの情報で…。｣
たまたま来た時に杉元さんがハラキリ芸をやっていたから狙った、と。
依頼主はロシア政府の人間。
｢なんで座長がロシア政府から殺し屋を送られるんだ。｣
｢…………スパイ…ですね？｣
スパイ……諜報部隊のことか。
まさか山田さんがそんなことをしていたなんて。人間は見かけによらないなあ。
いい人なんだが。
｢その通り、私は元陸軍将校です。ヤマダ曲馬団座長として何年もロシアをまわって巡業し、裏では情報を日本陸軍の特務機関に報告してきました。｣
そこで山田さんは正体を感ずかれた。
だから今回狙われた。
｢…ったく、三流スパイだよ。アンタは。｣
パァン…パァン！
｢3つともテントの下に埋めときな。明日の朝にはアタシ達も立ち去ってここは元の空き地さね。｣
そんなこんなで幕を閉じた樺太公演。
｢杉元さん、傷はもう大丈夫なのか？｣
｢え？傷なんてあったっけ？｣
｢ハラキリショーのときのだ。本物の刀で切ったんだろう？｣
そういうと杉元さんはそういえば、ともらした。
忘れていたということは痛みもないのか？
｢大丈夫。こんなのかすり傷にもならねぇよ。｣
｢そ、そうか。大丈夫ならいいんだ。｣
｢ありがとうねAちゃん。心配してくれて。｣
そう頭を撫でられた。…………暖かい。
そしてその日の朝刊に樺太公演の記事が載っていた。
ほぼ鯉登さんの内容だった。
…頑張れ杉元さん。
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作者名：きょーりん | 作成日時：2019年3月23日 21時
