語り/池田三郎次 ページ4
今日は四郎兵衛たちがいないため､僕は一人で夕食を食べていた｡やっぱり一人だと味気ないな…なんて考えていると､昼間遭遇してしまった天女と五年生三人が食堂へ入ってきた｡
一瞬､天女が僕の方を見たような気がした｡でも前の天女は僕たち下級生に興味がなかったし､今だって五年生の先輩方といる｡やっぱり気のせいだよな｡
そう思ったが､どうやら本当に天女は僕を見ていたらしい｡何故なら､天女が僕の前の席に座ったからだ｡
“こんばんは､池田君。”
僕に話しかけてきたことにもかなり驚いたが､それよりも驚いたのは僕の名前を覚えていたことだ｡
昼間､ほんの一言二言交わしただけなのに…それに天女は上級生にしか興味がないんじゃないのか？
本当は天女と呼んでやろうと思ったが､僕の名前をしっかり覚えていたことだし､僕も彼女のことを名前で呼んでやることした｡
僕は不知火に何の用か聞いた｡五年生たちといたにも関わらず､何の理由もなく僕のところに来るはずがない｡どうせ上級生のことを教えろとかそんなことだろう｡
だけど僕の予想は外れた｡
不知火は僕が怪我をしていないか確かめに来たのだ｡恥ずかしいことに今日の昼間､僕は急いでいて､不知火がピカピカに磨いた廊下で滑って転んでしまったのだ｡
僕は不知火に怪我をしていないことを伝えると､不知火は安心した様子だった｡
不知火は変わってる｡僕が怪我をしてないか､心配してくるし､僕が敬語を使わなくても怒らない｡前の天女は怪我の心配をするどころか､むしろ怪我を負わせてきたし､敬語も使わないとすごく怒ってきた｡
まあ敬語を使わないのは､天女相手に使いたくないからだけど……天女につかってやる必要ないし……｡
僕は不知火に思っていることを伝えると､不知火は歳上には敬語を使うべき､だけど自分はそういうのは気にしないと答えた｡それに僕はまだ十一だから礼儀はこれから覚えていけばいいと言う｡
僕は不知火のことを理解できない｡不知火は優しいし､妖術も使わない｡僕の話もちゃんと聞いてくれる｡だから僕は不知火のことを理解できない｡でも一番理解できないのは､そんな不知火のことを受け入れている自分自身だ｡
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作者名：ずみ | 作成日時：2019年11月2日 17時
