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「え、えっと・・・」
大きな丸々とした目で、私のことをじっと見てくる彼。
“今はただ
思ひ絶えなむ
とばかりを
人づてならで
いふよしもがな”
彼は酷く悲しそうにそう言った。
「何故ですか・・・何故何も言わず行ってしまわれたのですか!あの日、僕はずっと貴方のことを待っていたのに!」
「な、なんのこと?」
「やはり覚えていないのですね・・・・・・。」
私は彼と会ったことがある?
でもここは室町で、私がいたのは平成。
きっと彼は私と誰かを重ねているに違いない。
絶対…そうだよね………。
「僕は一年は組、学級委員長の“黒木庄左ヱ門”です。」
「黒木・・・庄、左ヱ門・・・」
“先輩!”
“先輩?”
“先ぱ〜いっ!”
“先輩、僕・・・”
______貴方のことが“好き”です。
「庄ちゃん。」
「お、思い出されたのですか!?」
「庄ちゃんって呼んでもいいかな?」
「・・・・・・はい。」
黒木君は今にも泣きそうな顔で席に戻っていった。
「お前、庄左ヱ門とどういう関係だ?」
「さぁ・・・」
私は何か大事なことを忘れている。
でもそれはきっと思い出してはいけない記憶。
だから私はまた、知らないふりをする。
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今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを
人づてならで いふよしもがな
[訳]貴方のことを諦める、とただ一言。
直接目を見て、伝えたいだけなのに。
左京大夫道雅(63番)『後拾遺集』恋・750
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作者名:ずみ | 作成日時:2019年11月2日 17時