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彼の傍にいたい、ずっと彼の傍で彼を支えていきたい。
同じ景色を見て、同じ景色を感じて。
そう思う事が、こんなにも苦しく辛い事なのか。どうして私の思考回路はこうも難しく固く考えてしまうものなのか。
(違う、そうじゃ…)
彼が私の肌を求めてくる事は、今までで一度もなかった。
それが幸か不幸か、そんな事は私に分かるわけがなくただ気付かないふりをしていた。
年頃も、年頃。愛しい人と甘いひとときを過ごしたいと思うのは、自明のコトかもしれない。
ただ、そのコトが私に壁を作り恐怖という名の黒く深い感情を教えてくる。
「僕は、無理強いはしないよ。」
今までも、これからも、と付け足した彼の顔がどうしても見れずに手元の紅い箸に目を落とした。
ごくん、と唾を飲み込む音が生々しく部屋に響いた。
「…ぷ、ぁはは、あははっ!」
へ、と間抜けな顔を晒せば彼はさらに肩を震わせた。
「な、何よ…人が真剣に悩んでるって言うのに…!」
「だって、ふふ…!僕はそんなに狼じゃないのに…ふふふふっ」
愉快そうに口元に手を添えて、肩を上下させる彼。
ほのかに頬が染まっていた。
そんな余裕そうな彼に対して、自分の余裕のなさに心底呆れてしまう。
まるで期待をしているかのようで、そんな自分を苦々しく思った。
「だ、だって…周りの子はもう、その……経験してるっていうか、その…っ」
「A、そんなに急がなくても良いんだよ。僕達は僕達のペースで…とは言っても基本的にはAに合わせたいから、Aペースかな。」
うんうん、と瞳を閉じてまた箸を手にした彼。
本当に素敵な彼を私は頂いてしまったと頬が緩んだ。
「…周助、好きよ。」
彼の瞳を見つめて、そう呟けば時が止まったかのように彼と私の瞳が絡み合う。
心臓の鼓動がやけに耳についてしまって呼吸するのも忘れてしまいそうになる。
「ほら、こんなに美味しそうな夕食だから冷めないうちに食べようよ、ね?」
自分で改めて呟いた言葉が妙に耳に残って、心から恥ずかしく思った。
どうにかこの沈黙を変えたくて、思わず他の話題に変えようとした。
「ふふ、そうだね、今は食べようか。」
彼の瞳に宿っている小さな熱に、気付かないように箸を持ち直して夕食を楽しんだ。
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ゆーり - めちゃくちゃ感動しました!あえて主人公に手を出さないところとかがめちゃくちゃ不二っぽくて!ほんとに感動でした! (2021年3月14日 16時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
桜田 しおり(プロフ) - 鮎太郎さんさん» そう言って頂けて嬉しい限りです。これからもこの作品をよろしくお願いします! (2018年9月29日 20時) (レス) id: ef32a79d1d (このIDを非表示/違反報告)
鮎太郎さん - ヤバイです!不二先輩かっこよすぎます! (2018年9月27日 22時) (レス) id: 41a4e5daec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜田 しおり | 作成日時:2018年9月14日 7時