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帰り際の下駄箱で、バイブが鳴った携帯を鞄から取り出した。液晶を見ると、緑の通知バーの中に『一緒に帰ろう』の文字。
「…ふふ、」
前よりずっと回りくどい小芭内でなくなったな、と嬉しいんだか寂しいんだかどっちつかずの気持ち。
でも、どれもこれも幸せだからなんだっていいや。
そんなことを思いながらロッカーから外靴を取り出していると、「あ、我妻先生」と冷めたような声が聞こえた。
この声は……。
「お、時透くん」
それは、この春から晴れて高等部に進級した時透無一郎くんだった。
質問だったら聞くよ〜と笑って返したけれど、時透くんは私の数歩手前まで来ると突然何かを思い出したようにピタリと止まった。そして唐突にポケットから絆創膏を取り出す。
「先生、詰めが甘いですよ」
「…ん?」
詰めが甘いとは。
何が何だか分からないまま水色の可愛らしい絆創膏を受け取る。
「まったく、隠すにしてももう少し上手くやってくださいよ」
「?なんの話?」
「先生って鏡とか見ない人ですか?」
時透くんは呆れたように大きくため息をついてから、髪を耳にかけて自身の首筋に指をちょんと当てた。
「ほら、くびのとこ」
つられて私も首元に手を伸ばす。
「ついてますよ、キスマーク」
「ぅ、え、え、」
指摘された事実が信じられなさすぎて、私は奇声を上げずにはいられなかった。
「ぅぇぇぇええええ!?」
「うるっさ……」
時透くんは顔を顰めながら耳を塞ぐ。
つまり、今日1日キスマークつけたまま仕事してたってこと!?信じられない。
それでやけに宇髄の野郎がニタニタしてたってわけだ。
「うわぁんごめんねごめんね時透くんなんか色々……」
「いや、別に。あと、数人にも気づかれてましたよそれ。虫に刺されたらしいって僕が言っておきましたけど」
「ファインプレーすぎるよぉぉありがとおおお」
危うく10歳も下の少年に抱きつきそうになって、慌ててブレーキを踏んだ。
「はぁ…伊黒先生も、ほどほどにした方がいいですよ。じゃあ、さようなら」
ひらりと手を振って時透くんがその場から退く。
その向こうでバツが悪そうに立っていたのは。
「いぐろおばないぃぃぃ!!」
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和加 - 声出して笑ってしまうんですが。面白すぎです笑 (2021年2月3日 6時) (レス) id: 263e001d98 (このIDを非表示/違反報告)
いちごミルク(プロフ) - 完結お疲れ様です。面白かったです!! (2020年12月25日 15時) (レス) id: 00ab994726 (このIDを非表示/違反報告)
モブちゃん - キャァァァァァァ!キュンキュンするわ!伊黒さん、お幸せに! (2020年12月25日 7時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
みゆきだいふく(プロフ) - 深紅さん» すみません爆笑しましたwwwwwww (2020年12月23日 21時) (レス) id: a48323ed49 (このIDを非表示/違反報告)
深紅(プロフ) - 私の中でLove so sweetが流れた (2020年12月23日 20時) (レス) id: 1de38023e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゆきだいふく | 作成日時:2020年12月2日 1時