38 ページ38
・
「すまない。もう少しだけこうさせてくれ」
聞いていて全身が熱くなるほどに真っ直ぐな独白。
それが耳元で鳴り響くのを、私はずっと泣きながら聞いていた。
いつも色違いの瞳の奥で息を潜めている彼の臆病さが、今は全身を通じて私に伝わってくる。
怖いのは、私だけではなかったんだ。
もしなんらかの拍子に私の気持ちを知ってしまっても、離れないで欲しい、嫌わないで欲しい。
そう心の底から懇願していた気持ちも、全部。
「小芭内、私も聞いて欲しいことかあるの」
溢れ出るように口にした。
「私も小芭内が好き」
ずっと言いたかった。
怖くて言えなかった。
すっと彼の肩から力が抜けていくのを確認して、もう一度。
「好きだよ」
紛うことなく正直な気持ちをわかって欲しいから。
それなのに、私の期待をよそに、次に彼の口から出たの言葉は思いもよらないものだった。
「それは、勘違いではないのか」
「かん、ちがい?」
ふわりと拘束が解かれ、私の上半身は惜しくも自由になった。
目の前にあるそれは、予想もしなかった疑いの目。
「俺に、抱かれたからそう勘違いしているだけではないのか」
「……は」
「俺は、そういう才があるらしいんだ。全くもって要らないが、男女の交渉における才が。」
何を言っているのかわからなくて、私は小芭内の言葉を噛み砕くのにかなりの時間を要した。
「俺は今まで何人もそういう錯覚に落としいれてしまったから。でも、Aだけは、そんな風になって欲しくなかった。あの日手を出してしまったことは一生の不覚だ」
「ねぇ何言ってるの」
「もう一度、自分の心に問いかけてみたほうがいい。こんな、焼き海苔の妖怪のような屑で本当にいいのかと」
悲しい。小芭内の私に対する疑いの目が悲しい。
けれども、次に湧き上がってきたのは怒りだった。何に対する怒りなのかを整理する前に、私はめちゃくちゃに叫んだ。
「いやだ!!小芭内のばか!なんでそんなこと言うの!?」
「っ、A?」
「自分から私の事好きだって言っておいてさぁ!いっつもいっつも、なんで小芭内は自分のこと変な例え方で卑下するのよ!!」
・
697人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
和加 - 声出して笑ってしまうんですが。面白すぎです笑 (2021年2月3日 6時) (レス) id: 263e001d98 (このIDを非表示/違反報告)
いちごミルク(プロフ) - 完結お疲れ様です。面白かったです!! (2020年12月25日 15時) (レス) id: 00ab994726 (このIDを非表示/違反報告)
モブちゃん - キャァァァァァァ!キュンキュンするわ!伊黒さん、お幸せに! (2020年12月25日 7時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
みゆきだいふく(プロフ) - 深紅さん» すみません爆笑しましたwwwwwww (2020年12月23日 21時) (レス) id: a48323ed49 (このIDを非表示/違反報告)
深紅(プロフ) - 私の中でLove so sweetが流れた (2020年12月23日 20時) (レス) id: 1de38023e0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:みゆきだいふく | 作成日時:2020年12月2日 1時