37 ページ37
・
好きだった。もうずっと前から。
Aは覚えていないと思うが、小学6年生の初めの席、君と隣だったんだ。我妻と伊黒、出席番号が近かったおかげで。
『伊黒くんっていうの?私、我妻A!よろしくね』
『ああ、よろしく』
『えっ……その目』
Aが俺に目を合わせた瞬間、体が強ばった。好奇の目を向けられることには慣れていたが、それでも怖かった。
汚いと、醜いと思われていたらどうしよう。不安ばかりが先行した。しかし、それは杞憂に終わった。
『きれー!初めて見た!すっっごいかっこいい!』
君は、俺のこの目を綺麗、かっこいいと表現した。
初めて見た、それは俺の方だ。
初対面で俺の事をかっこいいなどと言った人は今まで出会った中にいるはずもなかった。
元々、女子なんかとは極力関わりたくなかった。集団で群れて、人の粗探しをしながら人間関係にわざわざヒエラルキーを作る。彼女らのことは、嫌悪すべき人種だと思い込んでいた。
だが、Aは違った。
『我妻さんの弟くんって、あれ地毛なの?』
『さすがにないでしょ。てか、小一で金髪ってちょっとやばい子なんじゃない?』
『ガラ悪いよね〜それに姉の方もなかなかにうるさいし』
そんなことをよくも大きな声で言えるな。
うるさいのはお前らの方だ。
俺は耳を塞ぎたくなった。
けれども、その輪の中に割って入って正義を貫くほどの勇気は持ち合わせていなかった。
『ねぇ、善逸のことガラ悪いって言ったの、だれ』
『いや、えっと……その』
『私のことを言うのは正直どうでもいいよ。でも、あの子のことは何も言わないでほしい』
ざわめいていた教室が一気に静まり返った。
これでは、我妻に彼女らの敵意が向いてしまうのではないだろうか。
しかし、俺が肝を冷やしたのは一瞬だった。
彼女は笑ったのだ。
『えへへ、善逸、綺麗な地毛でしょ?自慢の弟なんだぁ』
その一瞬で、なにもかも水に流したとでも言うように。
かっこいい、綺麗だ。
今度は俺がそう思う番だった。
『すごいな、我妻は……』
『えへ、今の見てた?ねえねえ、かっこよかった?』
『いや、○○○○すぎてすごいと言っている』
『もー、伊黒くんてば』
あの時から、もう既に俺の天邪鬼は始まっていた。
ずっと気付かないふりをしていた想いはいつのまにか見ないふりなんて出来ないほど大きくなった。
こうして無防備な君を前にして、抱きしめずにはいられなくなるくらいに。
・
697人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
和加 - 声出して笑ってしまうんですが。面白すぎです笑 (2021年2月3日 6時) (レス) id: 263e001d98 (このIDを非表示/違反報告)
いちごミルク(プロフ) - 完結お疲れ様です。面白かったです!! (2020年12月25日 15時) (レス) id: 00ab994726 (このIDを非表示/違反報告)
モブちゃん - キャァァァァァァ!キュンキュンするわ!伊黒さん、お幸せに! (2020年12月25日 7時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
みゆきだいふく(プロフ) - 深紅さん» すみません爆笑しましたwwwwwww (2020年12月23日 21時) (レス) id: a48323ed49 (このIDを非表示/違反報告)
深紅(プロフ) - 私の中でLove so sweetが流れた (2020年12月23日 20時) (レス) id: 1de38023e0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:みゆきだいふく | 作成日時:2020年12月2日 1時