35 ページ35
・
その日は、世の中の男女が一通り通過しそうなデートを楽しんでしまった。
映画館でポップコーンを分け合っ_____いや、ほとんど私が食べてたけど、それからちょっといい所でご飯を食べて、手を繋いで街灯の下を歩いた。
なんだか、死んでしまうのではないかと思った。
幸せで、ずっと夢見心地だった。
小さい頃から破天荒であまり女として見られることに慣れていない私にとって、心做しか愛おしそうに微笑む顔は、私のおふざけに目を細めるのは、どれも私の胸を高鳴らせた。
今日の映画の感想を言い合いながら、そして時々彼の罵倒の言葉に泣き言を挟みながら、私たちは駅に向かって歩いた。
_____離れたくないなぁ。
口からは中々出てこない本音があわよくば繋いだ手から伝わったりしないかな。
そんな淡い期待を寄せてみたけれど、惜しくもその手は離れた。
冷たい外気に晒された指先がゆっくりと熱を失っていく。
「ありがとう、今日は楽しかった」
「うん、こちらこそありがと!ネックレスも貰っちゃって……」
胸元のシトリンに触れた。
数分後の私は、駅からの家路を辿りながら今日の楽しかった出来事を初めから辿っているだろうな。
「可愛い」と言ったその声の温度をありありと思い出して、俯いて噛み締めるだろうな。
寒くて、彼の温度が惜しくて、私は1歩を踏み出してその袖口を掴んだ。
面食らったような顔をしてから、彼がなにか察したかのようにふんわりと笑う。
「寂しいなら、家まで送っていこうか」
今日の小芭内は異様に優しい。優しすぎて、そこに溺れそうになる自分を抑えるのに手一杯で。
いっそのこと、もう言ってしまおうかな。
小芭内の事が好きで、好きで。
どこまでも浅ましい私は前と同じように抱きしめて欲しいと思っていることを。
「……どうした?」
「ごめん小芭内。はしたない子だと思ってくれて構わない」
心臓がばくばくと耳の裏に響くような音を立てている。
先程まで繋いでいた手を両手でぎゅっと握った。
お願い、帰らないで。
まだ一緒にいて。
今日が幸せすぎて、私の胸の中を支配するのはただただ寂しい気持ちばかりで、彼の手の甲にはそれを証明する水滴がぽたぽたと落ちて流れた。
「帰りたく、ない」
・
697人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
和加 - 声出して笑ってしまうんですが。面白すぎです笑 (2021年2月3日 6時) (レス) id: 263e001d98 (このIDを非表示/違反報告)
いちごミルク(プロフ) - 完結お疲れ様です。面白かったです!! (2020年12月25日 15時) (レス) id: 00ab994726 (このIDを非表示/違反報告)
モブちゃん - キャァァァァァァ!キュンキュンするわ!伊黒さん、お幸せに! (2020年12月25日 7時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
みゆきだいふく(プロフ) - 深紅さん» すみません爆笑しましたwwwwwww (2020年12月23日 21時) (レス) id: a48323ed49 (このIDを非表示/違反報告)
深紅(プロフ) - 私の中でLove so sweetが流れた (2020年12月23日 20時) (レス) id: 1de38023e0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:みゆきだいふく | 作成日時:2020年12月2日 1時