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「どうやら、ストーカー被害の件も全てその女の仕業だったらしい」
「それは……災難でしたね。てか、あの時の姉ちゃんの怪我、そういう事だったんだ」
「すまない」
善逸は明らかに動揺していた。
すまない、なんて一言じゃ足りない。
「遊びを卒業してからも、顔も覚えていないような女が家に来たりポストに名前も知らない奴からの手紙が入っていたりした。全部、俺が軽率だったせいだ。もういいか、なんだか今日は体調が悪い気がする」
というか今悪くなった。
思い出しただけで吐きそうだ。
「えーっと、伊黒さんがとりあえず破壊的に上手いってことはわかりました、けど」
「けどなんだ。手放す方法があるなら教えてくれ」
善逸がうーん、とかえーっと、とか言いながら言葉を選んでいる間に俺は机に突っ伏した。
なんだか無性に視界を遮りたくて。
「つまり、抱かれて初めて姉ちゃんが伊黒さんを好きになったと思ってますか?」
「それ以外になにがある。こんな黒豆の出来損ないみたいな取り柄のない男を……可哀想だ」
善逸が呆れ声で「あーもう伊黒さんってほんと……」と何か言いかけた時だった。
布団の擦れる音と共に、彼女の眠そうな声が聞こえた。
「んー、いぐろさん?善逸おばないとでんわしてるのー?」
「ああ、うん…って、ちょっとねえちゃん!?それ俺の携帯!」
「うへへ、もしもーし」
寝起きのふやけきったような声。
寝ぼけているだけじゃない、多分少しお酒も入っている。
何度も聞いているはずなのに、こんな些細なことで高鳴る胸は少し変だ。
「A、泣き止んだのか」
「んー?ないてないよ。ねえねえ、おばないー」
「なんだ、嬉しそうだな」
ばたんとドアが閉まる音がして、部屋から善逸が出ていったのがわかった。
「小芭内の声が聞けたからうれしいの」
「そうか、俺もだ」
「やったあ、うふふ、おばない〜」
歌うように俺の名前を何度も呼ぶ。
こんな状態じゃきっと、何を言っても明日には忘れているのだろうな。
「ねえねえ、すき。小芭内は?」
「ああ、好きだ」
「んー、ふふ、すきすき」
今日のAは少し可愛いがすぎる。
そしてこんな時にしか素直になれない俺を許して欲しい。
「また2人であそぼうねぇ」
そう言ってから、Aは眠りについた。
いつまで経っても、通話は切れなかった。
ずっとその寝息を聞いていたかった。
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和加 - 声出して笑ってしまうんですが。面白すぎです笑 (2021年2月3日 6時) (レス) id: 263e001d98 (このIDを非表示/違反報告)
いちごミルク(プロフ) - 完結お疲れ様です。面白かったです!! (2020年12月25日 15時) (レス) id: 00ab994726 (このIDを非表示/違反報告)
モブちゃん - キャァァァァァァ!キュンキュンするわ!伊黒さん、お幸せに! (2020年12月25日 7時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
みゆきだいふく(プロフ) - 深紅さん» すみません爆笑しましたwwwwwww (2020年12月23日 21時) (レス) id: a48323ed49 (このIDを非表示/違反報告)
深紅(プロフ) - 私の中でLove so sweetが流れた (2020年12月23日 20時) (レス) id: 1de38023e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゆきだいふく | 作成日時:2020年12月2日 1時