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「えっ、ストーカー!?うそうそ!大丈夫!?よーし、私が守ってあげるね!!」
大学の帰り道、いつものように駅に向かう道でのことだった。
「どうして俺がお前に守られないといけないんだ。それくらい自分でなんとか……」
「う、あぐ……」
駅前の喧騒の中、くぐもった声。
それは、俺の隣から発せられた物だった。
「A……!!」
背中の辺りから服を伝ってぽたぽたと垂れる鮮血。
後ろを振り返ると、そこには黒いパーカーのフードを被った女が血の着いたナイフを持って立っていた。
震えた。怒りでどうにかなりそうだった。
「誰だ貴様!!」
感情任せに叫ぶと、彼女はふふ、と小さく笑う。
「覚えてない?伊黒小芭内くん」
なんだ、誰だ。
愉快犯でないなら、俺の知り合いか?
いやでも、俺に女の知り合いなんて……。
そいつがフードをとった。
「そんなに怖い顔しないでよ。私、あなたのことが好きなのに」
一瞬誰だか思い出せなかった。
けれども、すぐさま記憶が蘇ってくる。
真っ赤なリップとつんと高い鼻。
それに、この花柄のスカートの黒く焦げたような跡。
あの日のタバコと灰皿。
『すまない、洗濯してとれるのかこれは。弁償しよう』そう言って断られたことも思い出した。
「お前、2年前の」
自称ものわかりのいい女。
「そうだよ、言ったでしょ。あなたは人の人生をめちゃくちゃにするって。私、てっきりまた会ってくれるのかと思ってた」
その時の彼女の微笑みはどうしても脳裏から消えてくれない。
そいつが周りの人達に取り押さえられて警察に連行されるまでの一部始終を待つ前に、救急車が到着した。
幸い傷は浅くて軽傷で済んだが、もう少し位置がずれていたら一生残るものになっていたかもしれなかった。
俺はやっぱり、どう転んでも最低な男だ。
「すまないA、もう俺と縁を切ってくれても構わない……」
俺と関わることでAが傷つくのなら、そう思って言った謝罪の言葉はピシャリと跳ね返された。
「いやだ、なんでそんな事言うの…!私は小芭内と一緒にいたくてこうしてるのに。やだ、やだよお、縁切るとか言わないでよお、うぇぇえん」
そうやって泣き出すものだから、少しおかしくなって、俺は初めてその時Aのことを抱きしめた。
「ずっと友達だよ?」
「ああ、友達だ」
すまないA。
俺はまた嘘をついた。
友達だ、なんて。
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和加 - 声出して笑ってしまうんですが。面白すぎです笑 (2021年2月3日 6時) (レス) id: 263e001d98 (このIDを非表示/違反報告)
いちごミルク(プロフ) - 完結お疲れ様です。面白かったです!! (2020年12月25日 15時) (レス) id: 00ab994726 (このIDを非表示/違反報告)
モブちゃん - キャァァァァァァ!キュンキュンするわ!伊黒さん、お幸せに! (2020年12月25日 7時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
みゆきだいふく(プロフ) - 深紅さん» すみません爆笑しましたwwwwwww (2020年12月23日 21時) (レス) id: a48323ed49 (このIDを非表示/違反報告)
深紅(プロフ) - 私の中でLove so sweetが流れた (2020年12月23日 20時) (レス) id: 1de38023e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゆきだいふく | 作成日時:2020年12月2日 1時