【銀魂】 吉原の遊女と鬼の話。

伸ばした手 ページ25

わっちには時折思い出す記憶がある。

地上にいた最後の日。






その日は雨が降っていた。






いつになく優しい母さま。



幼いわっちの手を引いて。





「これからはいっぱい愛してもらえるよA

よかったねえ・・・」









怖いくらいのやさしい母さまの声に




またいつもみたいに殴られないように



意味が分からないながらもうなずいていた。








人通りの少ない道。


落ち着いた着物を着た二人の男。





かあさまに何か包みを渡す。






その途端、かあさまの顔は歓喜にゆがんだ






あさましい、今もこの目に焼きつく表情。









男たちに引きずられていく腕が痛くて







何かを叫んでも無視されて、









わっち以外にその場にいた全員が









下卑た笑みをうかべてた。









「いっぱいかわいがってもらうんだよ」









今にも高笑いしそうな雨にぬれた顔と、








馬鹿にしたようなこの言葉が母さまの最後の姿。









道行く人も、みてみぬふりをしながら
泣き叫ぶわっちと男たちの横を通り過ぎる。









助けて。









必死に手を伸ばした。









・・・確かその時、一人手をつかんでくれた人がいたのだ。









黒い瞳と黒い髪。









わっちと同い年くらいの小さな少年。
そのくらいしか思い出せぬ。









少年が手をつかんだのは
反射のようなものだったのかもしれない。








みしらぬ少女が自分の方に手を伸ばしたからつかんだ。






たぶんそれだけ。









結局その手の力は弱く、









いとも簡単に引きずられた力ですり抜けて、









少年は家族らしい若い男の人に、
手をひかれて連れて行かれてしまった。









暴れ疲れたわっちと









一度だけ振り返った少年の瞳が一瞬だけあって。









あの少年がどうしているのか気になって
わっちはこの記憶を時折掘り起こす。









・・・・じゃが、









皮肉なものじゃ。









この記憶の中で知る少年を今思い返すと、









どことなく、









土方と似ているような気がするのだから。









どこまで節操がなくなれば、

わっちは気が済むのじゃろう？

愛し方→←錯綜

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す