三十四 ページ36
差し出された伊作の手を挟む様に両手で握ると、伊作はまた微笑んだ。
伊作「うん、やっぱりAちゃんの手は冷たくて気持ちいいね……」
『本当にこれだけで大丈夫ですか?』
伊作「いいの……今はAちゃんに傍にいて欲しいから」
握った手は、毎日のように起こる不運の所為なのか傷だらけで、私の手よりも大きくてゴツゴツしていた。
伊作の見た目はどちらかというと可愛らしいから、いつもは思わないが、こういうのに触れると改めて性別の差を感じさせられる。
(あったかい手だなぁ……)
伊作が眠ったのを確認して、出て行こうと手を離そうとした。
しかし、その手は強く握られていて解くことができなかった。
私は仕方なく伊作の横に居続けることにして、起きるのを待った。
それから少しすると、伊作の手のあたたかさの所為なのか、ここ数日の疲れが出たのか、頭がぼーっとしてきて私は座ったまま眠ってしまったのだった。
目覚めると、私はくのたま長屋の自室の布団で寝かされていた。
(おかしい、さっきまで忍たま長屋にいた筈なのに)
私が半身を起こした時、丁度部屋の戸が開けられた。
「あら、もう起きてたんですね」
『あ……シナ先生』
部屋にいらっしゃったのは若い山本シナ先生だった。
『先生、私は何故此処に……?』
シナ「忍たま長屋の方で倒れている貴方を見つけてくれた生徒さん達が此処まで運んできてくれたのよ」
そう言うと、シナ先生は私の額に手をあてた。
その手は少しばかり冷たい様に感じる。
シナ「……うん、これは風邪ね」
『風邪……?』
私は一瞬何が起こっているのか分からなかった。
(私が風邪をひいたというのか……?)
少しばかりふわふわとした感覚
いつもならあたたかいと感じるシナ先生の手を、冷たいと感じる程に高い体温
倦怠感もある
自分が風邪をひいていることは明白だった。
シナ「Aちゃんは体調が良い時も悪い時も様子が変わらないから、傍で見ていてもわからないのよ。だから自分で自身のことに気づいてきちんと休みなさい」
『はい……』
シナ「私はこれから少し用があるから貴方のことは運んでくれた生徒さん達に任せることにしたの。だから、あとはその子達に頼ってね。それから……傍に居られなくてごめんなさい」
私をそっと抱きしめてくれたシナ先生は、柔らかくて良い匂いがした。
それがなんとなく、ただただ懐かしかった。
283人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆかり(プロフ) - あー、喜八郎と一緒に寝たい人生だった (12月24日 18時) (レス) @page16 id: c2f7bbb147 (このIDを非表示/違反報告)
黒糖さまでーす - 夢主さん最高 (2023年3月13日 19時) (レス) @page50 id: b07dd8e215 (このIDを非表示/違反報告)
ずんだ餅 - 面白かったです✨(*`▽´*) (2023年2月22日 0時) (レス) @page50 id: 12d02573a8 (このIDを非表示/違反報告)
勘ちゃんに食べられたいお菓子🍡 - 面白かった〜 (2023年2月15日 0時) (レス) @page50 id: 5ad601e96f (このIDを非表示/違反報告)
雪女 - お話良かったです、素敵な作品ありがとうございます。 (2022年7月29日 13時) (レス) @page50 id: 5834c2d9fa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ホシ | 作成日時:2021年12月31日 3時