十三 ページ15
孫兵が一番最初に目をつけたのは私が今いる木だった。
(その場しのぎでいい、早く別の場所に移らないと)
私は音を立てない様に木々を飛んで移動していった。
そして、とある木の枝に足を掛けたその時だった。
ヌルッ
ん???
何やら滑る液体が木の枝に塗られており、私は足を滑らせて真っ逆さまに落ちたのだ。
(しまった!このままだと頭を打って___)
私がそう悟った刹那、あることに気づいた。
(……地面に着かない)
私はまだ落ち続けている。
そして時間差で私は着地した。
しかし落ちた場所は硬い地面ではなく、何やら柔らかいものの上だった。
恐る恐る目を開けると暗くてよく見えない。
上を見上げれば、いつもより高いところに円状の空が見えた。
『これはもしかしなくても罠に引っ掛かったな』
「だーい成功」
穴の中で聞き覚えのある声がした。
(ああ、この状況でこの声は……)
知っている。そいつしか考えられない。
『そこにいるのは喜八郎ですね』
綾部「ピンポーン、正解です」
暗さにも目が慣れてきて、喜八郎の姿がはっきりと見える様になった。
彼は踏鋤を担いだ状態で私のすぐ側に立っていた。
どうやら底に敷かれていたのはもう使われなくなった布団の山らしい。まったく、用意周到なことで。
綾部「立花先輩に“絶対に捕らえろ”と言われたので頑張ったんです」
《絶対に捕らえろ》
確かにこの深さは道具がないと上がれない。
私は生憎それを持っていなかった。
しかも、上ではまだ生物委員会が捜索を続けている。
『暫くは此処にいる方が良さそうですね』
(上から底は暗すぎて見えないだろうし)
綾部「もう少しして生物委員会が捜索を終えれば、立花先輩が縄を持って迎えに来てくれることになってます」
『え、登る道具持ってないんですか?』
綾部「ええ」
結局私は暫く喜八郎と穴の中で過ごした。
とは言っても彼は横へと穴を黙々と掘り進めていたので会話はほとんどしていない。
本当に穴掘り小僧と言われるだけあって穴のことしか興味がないのだろう。
私もとても仲が良いというわけではないから、話すことも特にない。
(仙蔵に手伝わされて少々可哀想だとは思うけどね)
私はやることもなく、段々うとうとし始めた。
(まあ、どうせ仙蔵が来るまで誰も来ないだろうし)
私はそう考えて眠りに落ちた。
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ゆかり(プロフ) - あー、喜八郎と一緒に寝たい人生だった (12月24日 18時) (レス) @page16 id: c2f7bbb147 (このIDを非表示/違反報告)
黒糖さまでーす - 夢主さん最高 (2023年3月13日 19時) (レス) @page50 id: b07dd8e215 (このIDを非表示/違反報告)
ずんだ餅 - 面白かったです✨(*`▽´*) (2023年2月22日 0時) (レス) @page50 id: 12d02573a8 (このIDを非表示/違反報告)
勘ちゃんに食べられたいお菓子🍡 - 面白かった〜 (2023年2月15日 0時) (レス) @page50 id: 5ad601e96f (このIDを非表示/違反報告)
雪女 - お話良かったです、素敵な作品ありがとうございます。 (2022年7月29日 13時) (レス) @page50 id: 5834c2d9fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ホシ | 作成日時:2021年12月31日 3時