▽難易度を選択してください【Fischer's】

32話 ページ36

《モトキside》



なんだか天月さんに上手くかわされた気がする。

何を話そうとしたのだろうか。




「えー、本日は "レンズ越しの絵空事 "全国ツアー最終公演へお越しいただき、本当にありがとうございました！」


AちゃんのMCが始まる。

俺は考えることをやめ、彼女の言葉に耳を傾けた。



「私は今まで、色々なことに怯えながら過ごしてきました。やりたいことがあっても、それに怯えて何も出来ない。
自分は本当にダメなやつ、自分なんて大嫌い。そう思いながら生きてきた。」


しんみりとした雰囲気で、淡々と語るAちゃん。


スポットライトに照らされるその姿は神々しささえ醸し出していて、心臓が大きく脈打つ。



「このアルバムを制作している時期に、すごく辛いことがあったんです。でもその時にとある人が教えてくれた。『泣いていいんだよ、怖がらなくていいんだよ』って。」




え…？


突然彼女の口から発せられた自分のことに目を丸くする。



なんで、俺のこと…





「だから私は、自分を変えるために大切な友人である天月くんにお願いをして、彼の楽曲を借りてきました。」



名前が出された張本人の方を向く。

天月さんは爽快な笑顔でVサインを作った。


その上、口パクで『サプライズ』と告げる。




あまりの急展開に俺は戸惑いを隠せない。




「ここまでの私を好きでいてくれた人、これからの私も好きでいてくれる人、そして、私に勇気をくれた人に感謝を届けます。






聴いてください。『Hello,My story』。」



彼女がそう告げた途端、会場からは悲鳴が上がった。


俺自身も、開いた口が塞がらない。





もしかして、LINEで言ってた『届ける』って…

33話→←31話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す