・ ページ10
あれから季節は一巡した。
来月からやっと自分の店を持てることになった俺は、今日でこの家を出ることになっている。
晶哉はもう少し海外で学びたいと留学を延長して、この春日本に帰ってくるらしい。
Aからはあれ以来何の連絡もない。
俺からも連絡はしなかった。
あくまで俺たちはただの"同居人"だったから。
それでも急に訪れた1人の時間はなんだか居心地が悪かった。
晶哉でもいてくれたら気も紛れたのかなんて考えたけど、そんな理由で晶哉を呼び戻すわけにもいかないし。
結局こうして俺もここを出ていってしまうわけだから、今更なにか思ったところでどうしようもない。
荷物が運び出され何もなくなった自分の部屋をでた後、なんとなくAの部屋の前に立っていた。
いないとわかっているのにあの頃のようにノックをして扉をあける。
Aがいた頃と何ひとつ変わっていない部屋。
リチャ「…少しって言ったやん、」
なんで、
帰ってこうへんの?
玄関の鍵が開く音がして、我に返る。
少しの期待を胸に一階へと降りると、
佐野「リチャくん…!、良かった、間に合った…」
リチャ「晶哉、?」
息を切らした晶哉が立っていた。
佐野「大家さんからリチャくん今日で退去するって聞いて、予定はやめて帰国した…」
リチャ「…とりあえず、お茶でも飲む?」
佐野「飲む…」
冷蔵庫からペットボトルの緑茶を取って晶哉へ渡す。
佐野「あ〜、生き返った!めっちゃ久々に走ったわ!てか、なんでリチャくん引っ越すって俺に言ってくれへんかったん!?」
リチャ「忙しそうやったし。晶哉が帰ってきたタイミングで顔は出そうと思ってたで。」
佐野「ほんまリチャくんってそうゆうとこありますよね」
リチャ「あー、それはごめん笑」
佐野「お店だすんすよね。」
リチャ「うん、やっとやわ」
佐野「おめでとうございます」
リチャ「ありがとう」
佐野「あの、」
リチャ「ん?」
佐野「…Aちゃんのことなんですけど、」
そう言うと晶哉は鞄から一通の封筒を取りだした。
佐野「これAちゃんから預かったものです。」
リチャ「…俺が、読んでいいん?」
佐野「はい。リチャくんにって渡されたんで」
淡々として受け取ったつもりなのに封筒を持つ指は微かに震えていた。
192人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うに | 作成日時:2024年3月11日 4時