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末澤「はよ」
「相変わらず時間ぴったりに来るんやね」
末澤「ちゃうやろ Aがはやいんやん」
「いやゆうて私も来たの5分前やし」
末澤「あーもうこんなんどうでもいいわ笑 はよ行くで！」
「はいはい笑」
東京から鎌倉までは1時間ほど。
実は鎌倉には大学生のころに一度だけ訪れたことがある。
予定を詰めまくった1泊2日の旅行。
帰りの新幹線で爆睡して新神戸駅まで行ってしまった私をケラケラと笑っていたこと、彼は覚えているんだろうか。
末澤「なぁ」
「ん？」
末澤「…彼氏、どんな人やったん？」
窓の外に視線を遣りながら誠也くんはそう尋ねた。
「"ばか"がつくくらい優しい人。私の考えてること何も言わんでも全部わかっちゃうねん。」
末澤「それやのに別れたん？」
「全部わかるってことは気付かんでいいことも全部わかるってこと。それに私、我儘やから」
末澤「ふうん」
何を察したのか、誠也くんは列車を降りるまでそれ以上のことは聞いてこなかった。
鎌倉についた頃は丁度お昼時で、まずはごはんに行くことに。
末澤「なんか食べたいもんある？」
「んー特にないけど」
末澤「あっこ行こや。葉山の」
「日影茶屋？」
末澤「そう」
「混んでるんじゃない？並ぶかもよ？」
末澤「ええやん並べば」
「珍しいね〜、誠也くんがそんなこと言うの」
昔は行列に並ぶのとか好きじゃなかったくせに。
私の知らない誠也くんを見ている気がして、少し複雑に思うけど、
末澤「せっかく来たんやから、楽しまなやろ？」
そう言われてしまえば、すぐに気が晴れるんだから私も単純な女だ。
タイミングが良かったのか、日影茶屋は待つことなく席へと案内された。
末澤「変わってへんな全然」
「そりゃまあ老舗やし、」
末澤「Aはちょっとは成長したんとちゃう？笑」
「なにそれ」
末澤「やってあの時はめっちゃちっちゃい声で誠也くん誠也くんって俺の袖引っ張ってたやん笑」
「こんな凄いお店に20歳そこらの私なんかが来たらそうなるに決まってるやんか！偉そうに言ってるけどあの時誠也くんも心做しか小声やったけどね、笑」
末澤「いらんこと覚えとかんでええねん！ それにAは俺からしたら一生ガキみたいなもんやわ笑」
きっとあの頃は想像もしてなかっただろう。
あんなに声を潜めて喋っていたふたりが、今こうして話していること。
それなのにこんなにも遠い存在になってしまったこと。
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作者名：うに | 作成日時：2024年3月11日 4時
