Ep.30 ページ31
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先生は私を抱きしめたまま、子供をあやすみたいに左右にゆっくり揺れて、私の頭を自分の胸に押し付ける。
「・・・大丈夫だから、落ち着け」
こんな状況なのに、それがどうしようもないくらいに安心できて。
先生の服がシワになるくらいぎゅっと掴み、声を押し殺して泣いた。
涼音、ごめん。
あんたの彼氏の目の前にいたのに。
『ごめん、ごめん・・・ッ、』
うわごとのように謝り続けた。
自分が死ぬのは怖いとは思わないのに、人が死ぬのを見るのはどうしようもないくらい怖い。
ただただどす黒い恐怖が心の中で渦巻いた。
『・・・っひ、・・・はッ、・・・ッ!』
上手く息ができない。
私の様子がおかしい事に気付いた先生はすぐに私の顔を覗き込む。
「大丈夫、大丈夫だからゆっくり息しろ」
『ッは、・・・はァ・・・ッ!』
「A」
『ッ!!』
先生は私の頬を両手で包み込み、目を見て私の名前を呼んだ。
先生にはじめて名前で呼ばれ、私は息が止まる。
次第に落ち着きを取り戻し、ちゃんとしたリズムに戻ったそれ。
「・・・落ち着いたか?」
『・・・うん、だいじょうぶ・・・』
先生はまた、私を腕の中に閉じこめた。
「・・・傷、手当するからそこ座れ」
真上から聞こえてくる先生の声。
『・・・ん、』
傍にあった椅子に腰掛け、準備室に入ってった先生の背中を見つめる。
開きっぱなしのドアからは、モニターやらマイクやらが見えた。
「・・・腕、出して」
ガーゼやら包帯やら、普通美術室に無いようなものを持ってくる。
血は止まったけど、硬いコンクリートが当たったからか赤黒く痣が出来ていて。
傷口にガーゼを当てて、包帯を巻いていく先生の手は、綺麗だった。
絵を描く先生の手。
人を殺した、手。
「・・・どうした、?」
いつの間にか、その手に自分の手を重ねていた。
『・・・先生、ごめんね』
その言葉で、先生が目を見開いた。
『・・・私が澪奈のこと、ちゃんと守ってあげれてたら、先生がこんなことする必要もなかった。
中尾くんが殺される必要も、なかったのに』
「・・・お前のせいじゃないよ」
何度否定されようと、結局澪奈を助けられなかったのは事実で。
澪奈に、・・・皆に、───先生に。
謝り続けることしか、できなかった。
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寿司 - 何度も見返しております。 そのくらい大好きです! (2019年1月19日 17時) (レス) id: 1641cbc119 (このIDを非表示/違反報告)
のに - 最高です。ストーリーめっちゃ好きです。 (2019年1月15日 19時) (レス) id: 7e4ee45a06 (このIDを非表示/違反報告)
オレンジ☆(プロフ) - ↓誤字がありました、すみません!これからも、楽しみにしています!です! (2019年1月15日 10時) (レス) id: ea2cee480d (このIDを非表示/違反報告)
オレンジ☆(プロフ) - はじめましてオレンジです!あなた様の作品を楽しく見ています!!頻繁に更新をしてくださりありがとうございます!これからも、楽しみにしていましています! (2019年1月15日 10時) (レス) id: ea2cee480d (このIDを非表示/違反報告)
地咲 - 好きです(真顔) (2019年1月15日 2時) (レス) id: f98b79cb93 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しぃも | 作成日時:2019年1月7日 21時