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「もぉ!ちょっと目を離すとこうなんだから!」
『ハハハハ…』
顔を覆って嘆くおじさんに蘭が不機嫌な顔をして言うと「蘭さん」と竜円さんが蘭を宥めた
「お父さんを叱らんといてあげてください。お誘いしたんは、私らなんですから」
「そうや。名探偵に“源氏蛍”の事件、推理してもらお思てな」
「“源氏蛍”というたら、メンバーはみんな、“義経記”を持ってはるそうどすなぁ」
「わしも持ってるがな。あれはええ本やで、なあ古本屋」
「ええ…けど、僕はあまり好きやおまへん。“義経記”言うても、実際は弁慶の活躍を描いた“弁慶記”ですから」
「私は好きやで?特に“安宅”の弁慶、最高や」
「“あたか”ってなんですか?」
園子が尋ねると「能の出し物のひとつや」と水尾さんが答えた
「頼朝の追っ手から逃れる途中、義経と家来たちは山伏に変装して、安宅の関所を抜けようとするんやけど」
「変装を義経だけが見破られそうになってな。弁慶はとっさに、金剛杖で義経を叩いたんや」
「え?どうして?」
「関所の番人を欺くためや。まさか家来が主君を杖で打つなんて考えられへんやろ?」
「それで義経一行は無事、関所を通過できたんや。あとで弁慶は涙ながらに義経に謝るが、逆に義経は弁慶の機転を誉める。2人の絆の深さがわかるええ話や」
「うぅ…なんか難しい…姫乃ちゃん、わかった?」
『え?あ、はい』
「受験勉強がてらだと思えばいいだろ」
頭を抱えている佐々木先輩に容赦なくお兄ちゃんが言うと「平野が真面目だ…」と佐々木先輩が嘆いた
ーーーーー
ーーー
ー
「わあ、川が見える!」
『?』
料理を口に含んでいた私は声を出した園子の方を見た。障子を開けて外の景色を見ていたのだ
「鴨川どす」
「桜が綺麗…」
「ほんまやね」
「蘭と姫乃も来てみなよ」
『わあ…』
夜桜でライトアップされている桜を見ていると、等間隔に鴨川でカップルが寄り添って桜を見ていた
「鴨川の河原からカップルで見るのもよろしおすけど、この建物の下を流れてるみそぎ川を挟んで眺める桜は、また格別どす」
「ホント、きれいね…」
「いやぁ〜、きれいっす」
『…………』
背後からおじさんの声が聞こえてきて振り返ってみると、鼻の下を伸ばしたおじさんが、千賀鈴さんの左手を持ち自分の頬に擦り寄せていた
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作者名:サッカーバカ | 作成日時:2022年4月9日 15時