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「なン、で、」

『何でって中也は云うと思うけど、私にその声は聞こえないんだなぁそれが』





目の前に現れた彼奴は、淡々と説明をしていく。

死ぬ直前に云った通り、彼奴は「記憶操作」を可能とする異能の持ち主だった。

だから最後に俺に触れた時に経験もしていない"この"記憶を植え付けた。

故に俺と此奴の会話は不可である。






『云いたいことが山程あったから、勝手に一部の記憶を拝借した』

「えらい恐ろしく聞こえンなァ、、」





そうは云うものの、死んだ相手が目の前に現れるのは変な気持ちがする。

ましてや自分が殺した奴だ。

相手が望んでいたとしても、決して許されることではないと思う。







『守ってほしい約束をいくつか一方的に伝えようと思って』






ヘラリと笑ってみせた彼奴が、近くにいるような気がして手を伸ばすが、当たり前のように届かない。

すぐ、目の前にいるのに。








『一つ目、背を伸ばすこと』

「煩ェわ」






彼奴らしい言葉に、突っ込みながらも笑った。

其れが見えているかのように、彼奴も笑った。

とても、幸せそうに。


二つ目、三つ目、と案外簡単なことばかりで拍子抜けした。

彼奴のことだからもっとえげつないことを云ってくるとばかり思っていた。






『四つ目、新しい相棒と、仲良くすること』






それを云った時、彼奴が悲しそうに笑っていることに気がついた。

俺は、新しい相棒のことなんて考えてもいなかった。







『五つ目、私のことを忘れないこと』






目の前の彼奴は、泣いた。

本物ではないのに、泣いた。







『太宰がマフィアを抜ける時、私はあの人に誘われた』






俺の声の聞こえない彼奴は、驚くべき事実を話し出す。






『でも行きたくなかった。マフィアじゃなくて、中原中也と敵対関係になるのが嫌だった』







小さな嗚咽が聞こえた。






『太宰がいなくなった寂しさを紛らわせたかったわけじゃない。本当に、単純に、中也の相棒になりたかった』






抱き留めようにも、掴むことができないかった。







『憧れが始まり』

「A、」






彼奴は顔を上げて、涙で濡れた顔でいっぱいに笑った。

今まで見た笑顔の中で、一番に綺麗に。






『結局、中也が私の名前を呼んでくれることはなかったけど』









"私は貴方がずっとずっと、大好きでした"









目が覚めたのは朝だった。

俺も静かに、泣いていた。









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あ2み(プロフ) - すっごく深いお話ですね、思わず泣いてしまいました。文才もあって内容も素敵で読みがいがあります。素敵な作品ありがとうございました! (2018年1月21日 19時) (レス) id: a91b06e269 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - とても素敵なお話でした!ジーンと来ました! (2018年1月21日 10時) (レス) id: 01d2c8bc81 (このIDを非表示/違反報告)
ゆら(プロフ) - いい話で泣いてしまいました! (2018年1月21日 9時) (レス) id: 4724cc677a (このIDを非表示/違反報告)
★★ - とてもいいお話でした!!(つд⊂) (2018年1月21日 4時) (レス) id: 800725f97d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2018年1月20日 22時

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