File:001 家に帰ると推しがいた ページ1
「……は、え?!」
人は本当に驚くと、言葉を失うらしい。
本気で驚いた私の口から漏れたのは間抜けな声だった。
だって。いるのだ。存在するはずのない私の推しが、目の前に。
とりあえず落ち着こうとくるりと後ろを向いて深呼吸する。
落ち着け、落ち着くんだ私。
彼からの視線が痛いがそんなこと構ってられない。
まずは状況を整理しよう。
私は今日も、いつも通りに出勤し、いつも通りに働いていつも通りに帰ってきた。
そう。何もかもいつも通りだ。何かおかしなことをした記憶もない。
なのにだ。
なのに何故、次元が違うはずの私の推しがここにいるのか。
その姿をもう一度確認するため、ゆっくりと顔だけ振り返る。
……やっぱり推しだ!!推しがここにいる!!
不思議そうな顔もかっこいい。……じゃなくて!
私は意を決してもう一度、今度は体ごと振り返って彼と対面する。
「あの〜……つかぬ事をお伺いしても……?」
恐る恐る、聞いてみる。
「なんでしょう?」
「あの、えっと、まずお名前は……?」
「……安室透と言います」
彼は少し考えるような素振りを見せたあとそう答えた。んんん、めっちゃ警戒されてる。まあ、そんな所も素敵なんですが!!……じゃなくて!!
「えっと、じゃあ、安室さんは何故ここに……?」
「それが、僕にもわからなくって……」
「……ですよね〜」
ハハッとかわいた笑いが口から零れる。
安室さんの説明によるとこうだ。
彼は例の組織を追い込んだのだが、ラムが爆弾を使い自爆。それに巻き込まれたと思ったら私の家にいた。
ということらしい。
なるほどわからん!!!!!!
一人で百面相していると安室さんはふわりと笑った。
え、まって????なにそれ???????イケメンすぎて意味わかんない。
「あなたは不思議な人ですね」
まって、ちょっと待って、マジ待って。
「ハハ、ありがとうございます」
必死に取り繕った声は僅かに震えている。
これが、私と推しとの初めての出会いだった。
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