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庵ちゃんは苦笑した。

「本当は、先輩が同行する予定だったんです。だけど、一昨日の任務で松葉杖をつくほどの大怪我を負われて、来れなくなってしまって。緊急性の高い任務で後日にまわすこともできないから、とりあえず祓除はせず、事前調査をしてこいと命じられました」
「それなら、私が同行するよ」
「え! いえいえいえ、大丈夫です!」
「でも、」
「交通機関への影響力が大きいから緊急性が高いだけで、呪霊自体は低級ですし! 危なくなったら、すぐに逃げますから」

瀬奈さんは、瀬奈さんにしかできない仕事をしてください!

そう力強く説得されて、私は押し黙った。私の仕事は、私にしかできない仕事ではない。一級昇級のためだという名目で一級相当の任務を命じられたかと思えば、まだ一級ではないからという理由で二級以下の任務も当てがわれる。いわば人手不足の呪術界で都合よく利用されているだけの捨て駒だ。だけど、そんな愚痴めいた弱音を庵ちゃんに吐くわけにもいかない。

「そう。何かあればいつでも電話してね。駆けつけるから」
「はい! ありがとうございます」

庵ちゃんは、うふふと笑った。

「瀬奈さんが来てくださるなら、百人力ですね!」
「それは買い被りすぎだよ」
「いいえ。だって学生で準一級術師になれる人なんて、ごく一部でしょう?」
「そうでもないよ。私の学年は特級術師がふたりもいるし」
「五条悟と……、夏油さんですよね。でも、関係ないです。私にとっては、瀬奈さんが一番頼りになる先輩です」

庵ちゃんが天使みたいに笑う。大きな目が、照明を受けてきらきらと反射していた。

会計を済ませて店の外に出ると、日が暮れかかっていた。頬を撫でる生ぬるい風に、もうすっかり春ですね、と庵ちゃんが目を細める。

夕暮れの雑踏をふたりで歩き、横断歩道の前まで来たとき、私は立ち止まった。

「じゃあ、私はこっちだから。気をつけてね」

横断歩道の青信号を渡ろうとしていた庵ちゃんはふり返り、「ここでバイバイかぁ」と眉を下げた。

「今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
「また会いましょうね」
「うん」
「絶対ですからね」
「うん」
「そうだ! GWに、ネモフィラを見に行きましょうよ! いつなら空いてますか?」

放っておくと、いつまでも話し続けそうな庵ちゃんに苦笑した。

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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

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