憧れた天使にはなれなかった 前編

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「牧野さんのカルテに
　入院までの経緯が書かれててさ、
　…ご家族の動脈を噛み切ったって書いてて
　正直怖いと思った。」



もし自分にも襲い掛かってきたら、なんて
精神疾患から来るもので本人には判断能力がなかった
そうはわかっていても、普通の目では見ることができなかった。




「関わってくと本当にいい人で
　だから俺も怖がらずちゃんと接しようって」



「…、」



「でもまずその考えがよくなかったよね
　目黒さんの言う通り病気にしか目を向けてなかった。」




これからどうやって顔を合わせればいいんだ
牧野さんに不快な思いをさせ続けて
落ち着いてきていた症状を引き起こさせて
メンバーやAちゃん、病棟にまで迷惑をかけてしまった。




「佐久間くん、」




「…。」





「そうやって指摘されても
　ピンとこない学生も沢山いるよ。
　佐久間くんはちゃんと受け止めて反省して
　牧野さんに寄り添おうと努力して
　それは当たり前のようで中々できないことだよ。」






きっとAちゃんなりのフォロー何だと思う
だけど今の俺にその言葉はきつく突き刺さる。
不甲斐ない自分への苛立ちが抑えきれなくて
徐々にその怒りが彼女に向きそうになる。




「だからさ、」




お願いだからもう、何も言わないでくれ
理不尽な八つ当たりをしたくない。




「明日からその反省点を活かしてまた頑張ろう
　佐久間くんなら、」




「いいよそんな下手な励まし、いらない。」





その場に立ち止まって
Aちゃんは少し先でそんな俺を不思議そうに見つめる。
熱くなった目頭を隠すように空を見上げると
そのまま視線を降ろし彼女を睨みつけた。




「逃げた人にそんなこと言われたって、何も響かない。」




「佐久間くん…？」





「Aちゃん、医療事故起こして訴えられて
　責任も取らないで逃げ出したんでしょ。」









“神崎先生、医療事故起こして
　それが原因で子供一人死亡したらしいよ。
　訴えは棄却されたらしいけどその日から病院来なくなって
　そのまま辞めたから病院側も対応大変だったって。”






ラウールから聞いた、Aちゃんの噂。
傷つけること話わかっていたのに
ついカッとなって言ってしまった最悪の言葉。






「そんな人から看護指導なんて受けたくない。」





人を傷つけてばかりで
やっぱり俺は最低な人間だ。




Aちゃんは戸惑う表情で目に涙を浮かべながら
ただじっと俺を見つめていた。

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