・ ページ3
・
「お疲れ、」
「お疲れ様です。」
眠気を何とか吹き飛ばし受け持ちの講義を終わらせた。
やることは山積みで、今にも気が遠くなりそうで
渡辺先生にバレないうちに帰ってやろうとしたけれど
そんな私の願いは儚く散っていった。
「俺って勘が働く方なんだよね。」
「勘って言うか鼻でしょ」
「俺は犬か！」
帰宅準備を終えてさあ帰ろうと振り返ると
満面の笑みを浮かべた渡辺先生が立っていて
肩に腕を回され、いとも簡単に捕獲されてしまった。
「いいですね、渡辺先生はお気楽で。」
「俺だって大変なんだぞ？
あいつら看護教科以外の講義はマジで真剣に受けねえから。」
「ああ…」
確かに一般教養の時間寝てたな、なんて思い返して
渡辺先生の指摘する学生に何か言える立場じゃない私は
気まずさを覚えつつも焼き鳥を頬張った。
「でもまあ、Aも教員らしい顔つきになってきたじゃん。」
「何ですかそれ」
「褒め言葉だよ、
ここ来た時はこう…辛気臭かったというか。」
心当たりのある指摘に苦笑いを浮かべる。
思い出したくないのか、必死過ぎて覚えていないだけなのか
教員になったばかりの頃の事はあまり記憶にない。
看護師の頃の記憶は
嫌というほどに蘇ってくるのに。
「大変ですけど、やりがいはありますね。」
「見てて分かるよ。」
何だかんだで私の事を気にかけてくれるから
強引だなと思いつつも嫌いにはなれない。
この大学に馴染めたのも間違いなく渡辺先生のおかげで
悪態をつきつつも尊敬はしている。
「…天職だよ。」
「嬉しいです。」
「ホントに、だから辞めんなよ。」
その言葉が重くのしかかって
ぎこちない笑みを浮かべつつも小さく頷く。
何だか心の中を見抜かれているような気がして
ジョッキに残っていたお酒を一気に飲み干した。
小さな頃の自分に、もし今の自分から言葉を送れるのだとしたら
貴方は看護師という仕事を甘く見過ぎていたと言いたい。
思い描いていた世界はそこになくて
私は羽を手に入れるどころかボロボロになってしまった。
「私は天使にはなれないんですかね。」
「あ？」
「…何でもないです。」
お酒がいい具合に回ってきて店を出ると
何を言うでもなく家の前まで私を送り、渡辺先生は帰っていった。
余計な一言がなきゃモテるだろうに…と言いかけた言葉は
あまりにも失礼すぎるだろうとぐっと飲み込んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1446人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぱぐたろう(プロフ) - 翡翠さん» コメントありがとうございます！読んでくださって嬉しいです！ここから後半戦に入りますので、ゆっくりにはなりますが最後までよろしくお願いします🙇♀️ (2022年10月21日 19時) (
レス) id: 7ae9714678 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 最新話がなんか切なくて泣いちゃいました(;_;) 毎回更新して下さるの嬉しいです(><) 無理の無い程度に更新頑張ってください、！ (2022年10月17日 23時) (レス) @page40 id: 4d27a85535 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぐたろう(プロフ) - aggyさん» はじめまして！コメントありがとうございます🙇♀️そう言っていただけて嬉しいです！最後まで頑張ります！ (2022年9月24日 19時) (レス) id: 7ae9714678 (このIDを非表示/違反報告)
aggy(プロフ) - はじめまして、コメント失礼致します。わかりみが深すぎるお話で続きが気になります！どうなっていくのか楽しみにしてます！ (2022年9月24日 10時) (レス) id: f3f23b79cb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぱぐたろう
| 作成日時：2022年9月23日 18時
