それぞれの最後�� ページ29
「卒業、おめでとう」
担任のその言葉を合図に、彼女の高校生活は終わりを告げた。机の上に置いた卒業証書を何となく朝香は見つめる。
仲の良い友人とは一通りの挨拶を済ませ、また後日卒業を祝う約束をし解散となった朝香は、教室で一人自分の席だった場所に座っていた。校庭では沢山の人が卒業を祝い、祝われている。人混みの苦手な朝香は、時間をずらし帰ろうと思い、今に至る。
これで、ボーダーとの関わりはとうとう切れる。4年間、後ろにピッタリと着いてきていたボーダーという組織から離れるのだ。
市民を守る為に戦い、技術の発展の為に遠征へ行き人の命をその手に掛け、心が荒んだ時もあった。その記憶を城戸らが消さなかったのは、その過程が全て今の朝香を形成しているからである。
機械のように己の感情を上手く表出出来なかった朝香は、4年間で人間らしく変わった。命の重み、そして守る事の責任。何より、多くの人間との関わりが、彼女を大きく変えた。ボーダーでの記憶はどれも、朝香にとっては何一つ欠けてはならないものとなっていたのだった。
今まであった事を思い出していたその時、朝香の鼻が一人の人物の香りを感じ取る。
「まだここに居たんだ」
朝香は顔を上げ、その青い虹彩を教室の入口へと向けた。
立っていたのは男子にしては長い髪が特徴的な彼。
『よく分かったね、士郎』
「...何となくそんな気がしたので」
菊地原はそう言うと、朝香の座っている席まで歩を進める。そして、前の席の椅子を引くとそこへ座った。
「...玉狛、二宮隊に勝ちましたよ。最終的にB級2位」
『そっか。おめでとうと伝えておいて』
「反応薄。あんなに興味示してたのに」
『今の私には余り関係ない事だから』
「Aさん薄情じゃん」
妙に良く喋る菊地原に、朝香は何も言わなかった。
理由は何となく分かっているし、彼の気持ちにも朝香は気付いている。それを、彼が伝える気が無いことも。
＿＿＿＿沈黙。菊地原の耳には、朝香の穏やかな心音しか聞こえない。
そして、朝香が突然立ち上がり窓に手を掛けた。
鍵を降ろし解錠すると、ゆっくりと窓を開けた。
開けた瞬間舞い込んだまだ少し肌寒い春風が、朝香の髪を揺らす。
『春の、香りがするね』
そう告げて笑った朝香を、穏やかな日差しが照らす。
揺れる髪、日差しが照らす白い肌とそして、外を眺める深海の様な瞳が菊地原の目に入る。
今日で、見納めか。と菊地原は一人で考えるのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 291人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にこ(プロフ) - この度はこんなにも素晴らしい作品を作成してくださりありがとうございます（ ; ; ）出会えたことにとても感謝しております！他の作品も楽しみにしております！完結までお疲れ様でした＾＾ (2022年1月31日 0時) (
レス) @page32 id: 122cc99496 (このIDを非表示/違反報告)
そると(プロフ) - 綺世さん» 楽しみにしてます！(*´꒳`*) (2021年11月2日 16時) (レス) id: 60475fc3e4 (このIDを非表示/違反報告)
綺世(プロフ) - そるとさん» 最後まで読んでいただきありがとうございました！また作品を出した際にはよろしくお願いいたします。 (2021年11月2日 11時) (レス) id: d271d60620 (このIDを非表示/違反報告)
そると(プロフ) - ワールドトリガーで一番好きな作品だったので完結したのがとても嬉しい反面寂しい気がします、次作も楽しみにしてます！ (2021年11月2日 7時) (レス) @page32 id: 60475fc3e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：綺世 | 作成日時：2021年8月11日 3時
