71 ページ21
***
酷く苦しそうで
きっと、
相当しんどい思いさせてる。
だから、一生懸命話そうとしてくれてる…
それだけでも十分なのに。
俯いてるAの手をそっと包んだ
やっと顔が上がって
お互い逸らすことなく、見つめ合った
その沈黙を破ったのは Aで。
『 … まえ、弟は実家って言ったよね 』
「シュウさんだよね」
『そう。
でも、ホントは、もういない、の … っ、』
包んでた手に
きゅって力が籠った
『 …… 私のライブに来る途中だった。
その行き道で事故に遭って
ライブが終わる頃には、みんなもう息を引き取ってた
… わたしが、ライブに来て欲しいなんて
言ってなかったら… ッ 』
絶対に、違う。
誰だって来て欲しいって思うことは
間違ってなんかない。
『その日から、
声が、…… 出なくなって
どんなにトレーニングしても
たくさんの治療を受けても
ダメだった。
そのことで事務所の人と揉めて
逃げるみたいに辞めちゃった…
… みんなから、
信じてた人たちから
…私の歌は呪いだ。家族を殺 した声だって
ずっと言われ続けた。
その時に、
付き合ってた人がいたんだけど
少し怒りやすくて
そんな人でも
頼れる人がいなかったから馬鹿みたいに縋ってた。
でも、
ッ、…1回喉を踏みつけられた事が、あって …
殺 され、る…って思った
けど、
家族を呪った私なんか
もう、死 んじゃってもいいって
思ってた。
でも、
おばあちゃんも四ノ宮さんも、
私の歌が、大好きって言ってくれてたの…
おばあちゃんだけ残せない
歌は辞めても、
…生きることは続けなきゃって、、 』
Aの嗚咽が
店内に静かに響いた
小さな彼女が背負っていた哀しみは
俺の想像を遥かに超えていて
俺なんかが、
どんな言葉を掛けてあげられるのか分からなくなった
せめて、
彼女がひとりで泣かないように
小さなからだを抱きしめること
それしか出来なかった
***
613人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「登坂広臣」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:miu:miku | 作成日時:2020年9月15日 22時