吸血鬼に捧げる歌なんかない (ページ46)

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『ずっと前から。』

少女の想いを受け取った零の顔が、先程に比べて張り詰めていた糸が緩められたように、穏やかになった。
それから零は笑った。

『うわ、人の精一杯の告白を…笑っ…。』

恥ずかしさよりも、何だかまだ子供扱いされているみたいで肩を落とした。
小さな子供が「将来、先生と結婚する！」と宣言した時、決まって嬉しいとは言うものの、ありがとうで終わるのがオチだ。

それは本気にされていない証拠だからだ。
それで本当に結婚出来て共に歩めているのなら、それこそ映画が一本作れる程凄い。
大抵は有り得ないが。

「ははっ、いや、馬鹿にしてなんかねぇよ。…ただ漸くって思ってな。嬉しくて。」

『…！…はい、お待たせしてしまい申し訳御座いませんでした。』

「これで、心置き無く撫でてやれる。」

『いや、それはまだ良いなんて一言も…』

少女の言葉を最後まで聞かず、零は無造作に頭をわしゃわしゃと撫でた。
抵抗を諦めた少女は、大人しく頭を撫でられた。

こんなにも笑っている零を久しぶりに見たから。

『朔間さんの笑った顔、なんだか安心します。』

少女も口元を綻ばせる。
零の笑顔を見て、心の内側から絆されているような、否その笑顔を見るのを許されているような、
図々しくも誇れる、優越感に浸っている。

どんどん、零に近くなっていってしまっている自分にも、それでいいと言ってくれる零にも困りながら苦笑し、そう本音をもらした。

「そうか？…まあ同感だな。そっくりそのまま返すぜ。あと、その朔間さんっつーの、いい加減やめろ。何年の付き合いだと思ってんだ。」

『呼びやすいんです。』

「文字数的にも零の方が呼びやすいだろ。」

『仮に零さんと呼ぶとして…』

「"さん"がいらねーの。」

どうも少女の呼び方に納得がいかない零は、何度も又遠回しに下の名前を呼んでもらうよう誘導する。

『朔間。』

少女はその魂胆を見抜いていて、頑なに下の名前で呼ぼうとはしない。
思い通りに呼んでやるか、と意地を張る。

「凛月と被るだろ。」

『いえ、凛月君は凛月君とお呼びしていますし。』

「なっ」

零に揶揄われている少女は、偶には仕返ししてやろうと言わんばかりに零を見つめる。
少女もまた、零を誘導しているのだ。

「はっ。いいぜ、それなら俺はお前の事を音楽室の少女霊呼ばわりしてやる。」

『なっ…？！』