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「どういたしましてじゃな。」
『…朔間さん。』
「ん？」
少女は改まった顔で零と顔を合わせ、両手を膝上で組み握りながら強い眼差しを向けた。
零は何を言い出すのか、きょとんとしている。
『私、また曲書きます。燃やされた曲より良い物を必ず朔間さんに聞かせます。絶対に。』
昨日今日の短時間で、少女の心境に何らかの変化があった事を理解し、その言葉は諦めからのものでは無いことを、その目から受け取った。そこに恨みはなく、寧ろ清々しい眼差しだった。
普通、自身がようやっとの思いで身を削って完成させた傑作を燃やされたら、燃やした奴をどうにかこうにかしてやりたくなるものだし
その様な気持ちが多少あっても、文句は無かったのだが。
「気長に待っておるよ。我輩はどんな嬢ちゃんの曲も好きじゃからな。勿論嬢ちゃんもじゃよ。否、嬢ちゃんに至っては、愛しい。かえ？」
零は少女に優しい声色で励ますようにそう言い、頭を撫でた。
『…そういう言葉普通に言うの…何とかしてください。頭、撫でるのも。』
その手を掴みながら零の癖になっている言動を指摘すると、彼は眉を八の字にして子犬のように寂しげな顔をした。
「なんじゃ？嫌だったかの？」
一瞬、その美貌に絆されて思わず「いや、そんなことは…」と言いかけそうになった自分の頬を軽く叩く勢いで首を振って目を覚ます。
『そういう愛しい、みたいなのは将来的に大切にしたい人と会った時に使ってください…。愛には色々な形はありますけど、私はまた別で…。』
「何言っとるんじゃ。我輩は前々から言っておるぞ、嬢ちゃんが好きじゃって。」
『だからそれは昔の私の延長線であって…私一個人が、その所謂…異性関係の恋愛的なそういう意味は持ってないというか…。』
『というか、愛しいとかそういう言葉は、将来を誓い合った恋人同士しか使わないって、お母さんも仰ってましたし…。』
ぶつぶつと視線を泳がせながら一人呟くのを見ながら、零もまた先程の少女の様に自分の言葉の意味を本気にされていないと、溜息を一つ吐いた。
「じゃから。」
『頭撫でる癖ずーっと直ってないですし、好きとか愛しいとかすぐ言いますし…』
「嬢ちゃん。」
『そういうの他の子に言ったら勘違いされても仕方ないですよというか、これからの未来凄い綺麗な曲を書く運命的な人に出会うかもしれないのに』
「嬢─」
『今ここでその端正なお顔セットで言ってしまっても良いものかと私は心配して』
「A。」
『はい？！』
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
