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「折角俺様が素敵で有難い助言をしてやったってのに、不満か？」
『…いえ、朔間さんらしくて、すごく素敵です。』
昔の零と今の零は表面上、口調が八割、身なりがニ割の割合で変化はしているものの内面はそうも変わってはいない。
これは少女自身元から既知している事であって、今更気付くものでもない。
前述の通り、表面的な人から見える部分の口調や物腰が柔らかくなったことは周囲から見ても昔と比較すれば一目瞭然なのだが
時折昔のやんちゃ時代の顔を覗かせる事象が起きる事がある。
そういう面では、昔も今も彼の自由奔放さに困惑したり手を焼いたりする。
しかし今は、その昔と変わらぬ部分に救われている。
「また泣いてる。良い言葉すぎて沁みたか。」
『え…？あ、あれ、…そう、みたいですね。』
「……。」
泣いている、という意識を持たぬ程自然に溢れてきた涙を手の甲で拭うが止まる気配は依然としてなく、少女はこれ以上みっともない姿を晒す訳にはいかないと、零に背を向けた。
『ちょっと待ってください。気持ちを落ち着けますから、』
こんなに涙を流したのは何時ぶりだろうか。
それも、悔し涙等ではなく純粋な安心や寂しさから解放された時の様な、心の底からの涙。
報われなかった曲が、今、報われたように思える。
実際そうなのかは自己判断によるし、他者から見れば同じ曲を写すことも出来ず、二度と弾けない、作り出せなくなってしまったのだから、どう足掻いてもその曲は報われない、と思われるのかもしれないが
少なくとも、零の言葉が曲への最大の救済のように少女には感じられた。
涙を止めようと必死に拭っている少女の頭を零は優しく撫で、背中を摩った。
どこか懐かしい、暖かなその行動は更に少女の涙を誘い、逆効果となってしまった。
「涙拭いてやるから、こっち向け。」
『…だい、じょうぶです。』
「だから、嘘つくな。一人じゃもう無理って面してんの分かってんだよ。」
『無理じゃないです。朔間さん、絶対ブサイクって言うからいやです。』
「言うわけねぇだろ。」
渋々と顔を向ける少女の目元は、泣いたせいでやや赤く腫れている。
零に馬鹿にされる事を覚悟して警戒心強めに構えていたが、そんな少女の気持ちとは別に零は無言で細い指先で涙を拭った。
面食らっていると、今度は少女を引き寄せ、自分の胸に身体を落とさせた。
「一人じゃ無理って顔してんのバレてんだっつーの。…もう我慢すんな。」
『ご、め、ん…』
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
