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零との交渉から、約ニ週間が経過した。
契約の様な約束事は継続しており、少女も週二日音楽室に通ってはピアノを弾いている。
勿論、零に聞かせる為ではなくあくまで、自分個人としての趣味の一環であると断言している。
通う日は定めていないのだが、何故か恐ろしい事に少女が行こうと思っている日には必ずと言っていいほど、先に音楽室には零が居るのだ。
少女は基本的に一人を好む性格で、大勢で賑わう宴会やそれこそ誕生日パーティーといったものは、性分に合わないもので出来るだけ避けたいと思っている。
しかし、零の存在は一人、単体な筈なのにも関わらず、まるで周囲を大勢に囲まれているかのような異様なものを感じさせる。
少女はそれが落ち着かなくてならないのだ。
そこで今日は、ピアノを弾きに行かない旨を事前に零に伝え、学院内の中庭の木陰でひっそりと曲を書くことにした。
書きかけの楽譜と、ペンのみを学生用鞄に入れて
足早に中庭へと向かう。
少女の専門科は、アイドル科でもプロデュース科でもない。
作詞、作曲、編曲を手掛ける音楽科の方に重きを置いている。
そしてこの夢ノ咲学院アイドル科は男子しかいない。
アイドル科の生徒の行き来が多い、否最早此処はアイドル科の中庭と言っても過言ではない場所な故に、他学科の生徒が目立ってしまう。
それでも尚、少女がこの場所に居続けるのは単純な居心地の問題だった。
中庭に着くや否や、座り込み、少女は早速作曲を始めた。
ペン先を地面にかつかつと一定の音でぶつけては、間隔を変えてみたりして試行錯誤する。
『…ここは、もう少し遅めにした方が…。』
『いや、でもバラードを作るんだから最終的に転調を一度加えた方が曲的にも感情が乗っていいか…。』
『ピアノがないとやっぱり不便だな…。』
思った事を次々と口に出して、頭に蓄積された感情やらアイデアやらをアウトプットしていくのだ。
そんな少女の後ろに、ぬらりと現れる一つの影。
ぶつぶつと思案している少女はその存在に、気配に気が付かない。
そしてその存在が伸ばす手が少女の肩に触れ、
少女の肩が大きく揺れた。
『っ…！？零さ─…！？』
予想だにしていない行動をするのが朔間零で、それを日常的にされているからか、少女は肩を掴んだのが零だと思い込んだ。
しかしその考えは一瞬にして違うものだと認識する。
「おや、Aさん！ここで会えるとは、この日々樹渉光栄です！」
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
