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「そういう人だったって事でしょ。」
「それもそうね。結構裏の顔ありそうなのは事実だし？最低な性格してたら私それこそ応援出来なくなりそう。」
「当たってたらしん─」
気付いた時には扉を開け放っていて、心の底から煮え立つ怒りとはまた違った黒い靄のようなこの感情が自分の体を動かしていた。
彼女らは誰もいないと思っていた場所に、噂をしていた当人が突入してきたことに対して驚きと動揺を隠せておらず、目を丸くしている。
そんな彼女らの事には目もくれず、つかつかと詰め寄り真っ直ぐと視線を合わす。
「なんでアンタがここにいんの。」
『…その楽譜は私のです。』
「何？返して欲しいの？」
『返して欲しいです。それは人に聞かせたい曲なので。』
淡々と質問に応える少女を蔑んだ眼差しで見下ろし、持っているファイルを人質にしたのをいい事に嘲笑した。
「人って、朔間さんの事でしょ。アンタ、あの人の何なわけ？」
何、と聞かれると途端に答えが出なくなる。
友人？仕事仲間？傍から見れば恋人だと思われているのかもしれない。現に彼女らの誤解はそれから来ているし、この様な嫌がらせの意図も多少はそれらが関与しているはずだ。
そもそも一方的な自分の意見で関係性を発言して良いものなのかと不安さえある。
零は自分との関係をどう思っているのだろう。
少女は思わず食い下がるが、黙っていると更に反感を買いかねないので自信なさげに言う。
『…正直、自分でも分かりません。』
「はぁ？嘘つかないでくれる？二人きりで音楽室にこもって、態々アイドル科まで行ってたらしいじゃん。何も知りませんとか、有り得ない。」
『そう捉えられても仕方ない事は承知しています。私の行動が軽薄だった部分も反省しています。ごめんなさい。』
反抗されると思っていたのか彼女達は予想外の少女の反応に圧され、何も言い出せずにいる。
『その楽譜は、大切なんです。お願いします。返してください。』
少女は頭を下げて頼み込む。
「な、何それ。礼儀正しくして、素直なフリして謝っとけば済むとか。逆効果なんだけど。はいどうぞって渡して、それで朔間さんがアンタの作った曲を歌うことになったら、それこそ不快だし。」
『…お願いします。』
「ウザ。」
彼女らは少女の肩を押して部屋から無理矢理に出て行く。
ファイルは依然として返されないままだ。
翌日、机上の前面に悪質な落書きが施されていた。
音楽室には行けそうになかった。
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
