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「そうそれ。私この前見ちゃったんだけど、音楽室で零さんと二人きりでピアノのレッスンみたいなのしてたの！」
レッスンという単語に引っ掛かりも覚えたが、しかし傍から見ればそう捉えられても仕方ないと敢えて気にせずに流す。
有力な発言をしてくれるのではないか、という期待を込めて携帯の撮影ボタンを静かに押した。
事前に音の鳴らない機能が入っていて助かった。
「えぇ！？それマジだったんだ…てっきり噂だけかと。」
「で、そこで弾いてたのがこの楽譜ってわけよ。」
丁度彼女に隠れて見えなかったのか、取り出されたのは紛れもない自分のファイルであった。
少し襤褸が出てるのといい、濃かった青色が淡く灰色がかってしまっているのといい
何時も見慣れた私物だ、間違う筈が無い。
幼少期から持ち歩いていた大切な物の一つで
あれは、零との思い出の産物にも等しい。
決して見知らぬ相手に渡っていいものでは無いのだ。
「うわー、何盗って来たの？」
「ま、お父さんに頼まれたし。それに私もあの子気に食わなくて嫌いだし。あんた達もでしょ？」
「そりゃ嫌いだけどさ、暗いし愛想悪いし…。」
「成績とか技術とか私達よりも上ってのがまた癪だよね。」
「それなー。なんで？って感じ。」
本人が居ないことをいい事に、色々言われている此方の方が修正したい箇所も多く、それこそ癪に障りまくっているのだが
しかし確証は得られた。間違いなく犯行に及んだのは彼女だろう。
無論、犯行に及んでいないとしてもこの話を聞いて同情し、ファイルを盗んだことについては咎めなかった他の女子らも共犯である。
探偵じみたことから最早刑事事にまで発展してしまっていた。
「お父さん音楽プロなんだっけ？」
「そー。なんかあの子を取り入れたかったんだってさ。超嫌。でもまあ断ったらしくて。」
「同クラの嫌ってる子が自分の親の会社に居るとか考えるだけで気まず〜…。」
「だけど諦めきれなくて、この楽譜だけでも取ってきて欲しいって。零さんも認める曲らしいよ。」
零さんも認める曲というのは初耳だ。一体どこ情報なのだろうか？
何にせよ、犯行の意図も分かったことだ。
もうこそこと聞き耳を立てる必要は無いだろう。
意を決して立ち上がろうとする
「でも分かんないわ。アイツの曲が好きって言うのもさ。零さんってさては女好き？流石に二人きりっておかしいでしょ。」
「まぁモテるしあるんじゃない？」
「なんか幻滅〜。私ずっと思ってたのに。」
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
