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初対面の恐らくお偉いさんと思われる男性に、あんな上から目線の態度をとった。
自分はとんでもない事をやらかしてしまったのではないかと、今更過去の自分の言動に猛省している。
しかし、ああも正直に人に自分の意見をぶつけた事は無いとも思った。そんな自分に関心している場合では無いのだけれど。
これが引き金となって、退学なんて事にまで発展してしまわなければ良いのだが…。
廊下を歩きながら不安を募らせる。
既にあれから二日程経過しているが、未だにこんな事ばかり考えているものだから頭が痛い。
結局男との接触の後、音楽室には戻るにも戻れず、零には一応断りの連絡を入れたまま会っていない。
それに、ピアノを弾いていたらまたあの男が来る気もして、余計に行けないのである。
昼休みの時間にも関わらず気も休まらない思いが長引いているからか、普段よりどっと疲れが来ている。
思考しながらゆったりと歩いていたせいか、予鈴が自分を現実に引き戻す。
『や、やばい…！』
本鈴に間に合わせるべく、足早に教室へと向かった。
───放課後。
『…ない。』
六限目とSHRが終わり、飲み物を買いに行こうと一瞬席を開けただけのはず。
しかし変だ、貴重品はある。
無くなっているのは、今日音楽室で弾こうと用意していた楽譜だった。
よりにもよって零に聞かせると口約束をした楽譜もない。
そもそもそれらを入れていたファイル自体がごっそり無いのだから、最悪なのである。
ふと過ぎったのは先日の男。
自分の曲を執拗く欲しがっていた。直結させるのは悪い癖だが、そうとしか思えない。
だが男が入って来たと仮定しても、事情を知らない別生徒からすれば不審者扱いで教師を呼ばれるだろう。
だとしたら考えられるのは…娘か。
残念な事に顔を把握していないせいで、検討をつけることが出来ない。自分の記憶力を呪いたいくらいだ。
どうにかして写真くらい抑えられれば…。
そこでまたぱっと閃いた。
今日の自分は頭が冴えているのかもしれない。
携帯電話でクラス内で流行しているSNSのアプリを起動させ、タイムラインを探る。
佐伯と呼ばれる女子は、覚えている限りでは友人関係も広く、よく写真を撮って盛り上がっていた覚えがある。
人の机の上に乗ったり、占領したりしてまで撮ろうと思う思想は理解し難いが常に誰かと賑わっていたことだけは事実だ。
都合よく見つかってくれるだろう。
『……あった。』
なんだかハッカーにでもなった気分だ。
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
